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「俺……その」
「……はい」
「……なにか、食べるもの……」
……一体彼は今、何と言ったのだろうか?
私はそう思ってきょとんとしてしまう。
(聞き間違いじゃなかったら、食べるものって……)
まさかの、空腹で倒れていたっていうこと!?
いや、少なくとも身なりはきれいだし、普通に働いていると思っていた。
「く、空腹で、倒れたのですか……?」
恐る恐る、確認のようにそう問う。そうすれば、男性はこくんと首を縦に振った。
……よし。
「少し、待っていてください。何か食べるもの買ってきますから!」
財布の中には銀貨が一枚入っている。あんまり豪勢なものは買えないけれど、普通にパンとかならば買える。
そう思って、私は地面を蹴って走り始めた。
(っていうか、今日は本当に厄日……!)
ノーマンには振られるし、空腹で行き倒れた男性を見つけてしまうし。……後者は、厄とは言えないか。
少なくとも、彼は私がそばを通りかかったことで助かっているのだから。
私はそんなことを考えながら、この近くにあるパン屋の扉をたたいた。
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