第二十三話 お礼がしたい

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第二十三話 お礼がしたい

 翌日は休みだった。起きて一番にスマホを見た私は、昨日メッセージが来ていたことを知り申し訳ない気持ちになる。送り主は犬宮くんだった。 「お疲れ様。練習の成果が出てたな」  お疲れ様。犬宮くんのお陰だよ、ありがとう、と返信を打ち、私はベッドから起き上がった。また震えたスマホを手にとり、受信したメッセージを開く。 「目黒が頑張ったからだよ」  その優しい言葉に、思わず笑みがこぼれる。そうだ、散々付き合ってくれた犬宮くんに、何か御礼をしないと。何にしようかな……。久し振りにクッキーでも焼こうかな。材料はあったっけ。  材料の買い出しを済ませて、私はクッキーを作り始めた。しばらくしてこんがりと焼き上がったクッキーを、口に運ぶ。程よい甘さだ。成功かな。  出来上がったクッキーを冷ましてから袋詰めして、手書きのメッセージを添える。 「よし!」  これを、明日犬宮くんに渡そう。私の精一杯の感謝の気持ちだ。そう考えると、明日が来るのが待遠しかった。  今日は犬宮くんの部活が休みだと聞いて、私は自分の幸運に思わずガッツポーズをした。もちろん心の中で。しかしそんな運の良い日に限って、生憎の雨だった。朝は降っていなかったのに。私は傘立てに置きっ放しにしていた置き傘を手に持ち、下駄箱へ向かう。 「犬宮くん」 「目黒」  朝のうちに一緒に帰る約束を取り付けていた私達は、一緒に教室を出ると変に注目を浴びてしまうとのことで、下駄箱で待ち合わせをしていた。 「犬宮くん、傘ある?」 「忘れた。朝は晴れてたから降らないと思って……」  確かに、朝のニュースでの降水確率は大したことなかった。しかし現に降ってしまったのだ。 「一本ならあるんだけど、一緒でもいいかな?」 「え、あ、ああ……いいのか?」  相合い傘と言うのは気恥ずかしかった。私は傘を広げて、何か不具合は無いかチェックする。長らく置きっ放しだったが、大丈夫なようだ。それにしても、色つきの傘で良かった。透明な傘であれば、私達が一緒の傘で帰っていることは周囲にまるわかりだろう。ファンの多い犬宮くんだ、もしかすると迷惑をかけてしまうかもしれない。 「じゃ、帰ろっか」 「目黒、俺が持つよ」  そう言って犬宮くんは、私の手から傘を取る。犬宮くんの方が遥かに背が高いのだ、犬宮くんにとっても私にとっても、その方が好都合だった。一瞬重なった手に、どきりとしてしまう。 「そうだ、犬宮くん。これ、練習付き合ってくれた御礼に」  私は昨日作ったクッキーを取り出し、犬宮くんに渡した。犬宮くんは「気を使わなくていいのに」と言いながらも、笑顔で受け取ってくれた。 「……カード?」  渡したクッキーをしばらくまじまじと見つめ、犬宮くんが呟いた。それからクッキーと同封したメッセージカードを取り出して、しげしげ眺める。私は急に照れ臭くいたたまれない気持ちになって、カードを読む犬宮くんから視線を逸らした。 「嬉しい。大切にする」  こんな、ちょっとしたカードを?  犬宮くんを見上げると、溶けてしまいそうな、春の日差しのような表情をしていた。その表情が妙に、私の心臓をぎゅうと掴んで離さなかった。
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