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今から十五年前。当時まだ十歳だった武藤廉は、親から暴力を受けていた。
実父が亡くなり、義母と暮らすようになると、義母は怒りや悲しみを全て廉に向けるようになった。廉のクラスはいじめのあるクラスだったので、長袖で毎日来ている廉の事を、誰も気には留めなかった。
廉の人生が大きく変わったのは、ある土砂降りの夜だった。
その日は、いつも「いってきます」と言い、家を出る廉の母が「じゃあね」と言い、廉を抱きしめた日だった。
いつもは怖い母が、その日はとても優しい人に見えて、廉はとても嬉しかった。廉はその後もしばらくの間、母が出ていった玄関を見て、幸せそうに座っていた。
廉は母が帰ってくる時間になると、玄関の前に正座して母の姿を待った。しかし、いくら待てども母が帰ってくることはなかった。
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