プロローグ

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プロローグ

平坂(ひらさか)さんの声は、アルトでは役に立たない。ソプラノに移ってもらいます」  ヒュ、と、わたし・平坂(ひらさか)静音(しずね)は息をのむ。  『ついにアルトを離れなきゃいけないんだ。気に入ってたのに、残念だな』とも、『ソプラノか。わたし、高い声出すの苦手なのに』とも、考えられなかった。そんな余裕はなかった。  役に、立たない。この言葉が、わたしの心を支配していた。  こんな、厄介払いみたいな理由でパート替えさせられるのなんて、きっと前にも先にもわたしだけだろう。 「平坂(ひらさか)さん、友達いないみたいだから、仲良くしてやってくださいね~!」  余計なお世話だ、って思った。図星だったからこそ、弱みを握られてからかわれているみたいで、くやしかった。  先生は、冗談のつもりだったんだろう。みんな、声をあげて笑った。邪気なんてカケラもない、底ぬけに明るい声で。  わたしはその真ん中で、くちびるをかんでうつむいているしかなかったんだ。  やめた今でもつきまとう、合唱団の、忌まわしい思い出。  
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