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第1話
入学式。
笑いさざめく生徒の群れ。
クラス表の前にできてる人ごみに加わる勇気が出なくて、少し離れたところで立ちすくむ。
ポカポカの日ざし。まだ少し冷たい風が、みんなの髪先をさらっていく。
……前髪を作らずに短い髪をムリヤリくくっているから、わたしだけは例外なんだけどね。
いちばん大きな集団が立ち去って、クラス表付近がイッキに空いた。そこでわたしは、やっと動き出す。
クラスは――7組か。小学校は4組までしかなかったから、ちょっとヘンな感じ。
校門を入ってすぐの広場は、もう人がまばら。集合時刻が近づいてる。
わたしは昇降口へ向かう。
たったひとりで。
地元の公立中学だから、同級生の半分くらいは小学校の頃からおんなじ校舎で学校生活を共にしていたはず。なのに、わたしはひとりぼっちでいた。
教室中央付近の席に、ポツンと座る。周りは浮き足立って、明るいおしゃべりを繰り広げている。そんな中でのわたしは、明るい色をしているものに1つだけポッカリあいた、闇へつながる穴みたいな存在だった。
入学式の会場である体育館へ移動するために、列を作る。
そこで初めて、クラスメイトから話しかけられた。
小学校で見たことはない子。陽キャを全面に出して似たような雰囲気の2人とつるんでたけど、出席番号順の1列になって他の子たちと引き離されたらしい。
「ねえねえ、式ってダルいよね~!」
担任の先生が「静かにすみやかに並びましょー」って言うのも完全ムシで、ペラペラとよどみなく話す。
「アタシ、戸畑ミア」
戸畑さんはそう言ったあと、わたしをじっと見つめた。こちらも自己紹介しろということみたい。
こういう場合はすばやく名乗ったうえで『静かにって言われてるよ』って注意するのが正解なんだろう。ただ、声をかけられて舞い上がったわたしは、この子としゃべって先生に怒られるのもいいかも、なんて思っちゃった。
なのに。
とたんにイヤな思い出が頭をよぎる。声はノドのところで詰まって、出なかった。
無音の息を出して、意味もなく口をはくはくさせたあと、下を向く。
戸畑さんの、
「無視とか。感じワル」
とつぶやく声が聞こえた。
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