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「じゃあ始めよっか。平坂さん」
「あっ、は、はい」
「そんなに畏まらなくても良いのに」
新谷くんは笑顔だ。何を考えてるのか全くわからなくて、緊張する。
「早速だけど、文化祭で歌う曲、やってみようか。ワン、ツー、スリー、フォーで入って」
「わかりました……」
「なんで敬語なの?」
「あ、ご、ごめん……」
「まあいいや。じゃ、いくよ。ワン、ツー、スリー、フォー」
歌う、止められる、アドバイス。続きを歌う、また止められる、アドバイス。そんなことをひたすら繰り返しながら、時間が過ぎていく。
やがて、チャイムが鳴った。下校時間だ。
「今日は、これくらいにしとこうか」
バイバイ、と、返事も待たずに去っていく新谷くん。でも、逆にありがたかった。何時間も歌い通しで、もう声を出す気力がない。
――そういえば。原くん、今日は来なかったな。
1人になったからか、急にそんな考えが浮かんだ。でも。
下校時刻が過ぎた。そろそろ校舎内から撤退しないと。湧き上がってきたモヤモヤをそうやって霧散させて、わたしは小走りで階段の方に向かった。
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