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「平坂ちゃん、おは〜」
と、戸畑さん。
「おはよっ!」
と、小倉さん。
「おはよ」
と、北方さん。
ある朝。体育会系陽キャ3人組の挨拶に返事しようとする。
(おはよう)
あれ?
もう一回――そう思ったら、ゴホゴホと咳きこんでしまった。
まずい。入学直後と同じく、無視みたいに……
「大丈夫?」
一瞬、内心怯えてしまったのが申し訳なくなるくらい優しく、3人は駆け寄ってきて背中をさすってくれた。
「カゼ? 声出ない?」
コクッとうなずく。
「そっかあ」
「キツいでしょ」
……あれ、なんで。
そっか。3人の中で、わたしはもう、無愛想なウザいクラスメイトじゃないんだ……
「ま、待って待って泣かないで!」
アタシ達が泣かせたみたいじゃん、と言う戸畑さんと、同じく焦っている残りの2人。
滲む視界をすこし細めて、ふ、と息をこぼす。
メモ紙とシャーペンを取り出して。
――ありがとう。
罫線と罫線の間に収まった字を追って、3人は、パッと笑顔になった。
「何かあったら、教えてね」
「困った時は、お互い様」
ハッキリうなずいてみせる。3人はもう一度笑って、去っていった。
「良かったな」
コクリ。
かけられた声に反射的な反応をしてから、ぎょっとする。
原くん……!?
ワタワタしている間に彼はわたしのシャーペンを奪い取って、机の上に放置されていたメモ紙に字をつづる。
――おまえ、本当に大丈夫か?
そのまま真剣な顔をして、さらに書く。
――最近、疲れた顔してる。なんか、思い詰めてるだろ。もしかして、新谷からなんか
思わず、その手を押さえた。シャーペンを奪い返して、なぐり書きする。
――ちがうよ。心配させてごめんね。大丈夫。わたしが全部
悪いの、という言葉がにじんだ。それを皮切りにボタボタと落ちてきたもので、紙の上の言葉達が汚れていく。気遣いの優しい言葉も、強がりの震える言葉も、全部全部いっしょくたに。
グッと腕をつかまれた。原くんは痛いほどの力でわたしを立ち上がらせると、廊下の人気がない一角まで引っ張っていく。
「やっぱり」
原くんはわたしを壁ぎわまで追い詰める。
「もう、やめろよ」
強い声だった。にらむような、真剣な目をしていた。いたたまれなくて、わたしは下に視線をそらす。
「新谷には、オレから断っとく。おまえはもう、あいつに関わるな」
言い捨てて去っていく原くんを見送った後も、わたしはしばらく動けなかった。
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