第5話

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 痛めたノドは、しばらく治らなくて。  文化祭に向けた合唱練習では、ずっと縮こまってうつむいていた。  わたしの周りにいたクラスメイトたちが、事情を知った上でフォローしてくれたから、非難の目を向けられたりはしなかったし、先生や他クラスの子たちには気づかれもしなかった。でも、それがありがたいと同時に申し訳なくて、ずっと泣きそうだった。  それは結局、文化祭当日まで続いて。 「う……」  準備を整えて家を出ようとした瞬間、わたしは玄関でしゃがみ込んでしまった。  お腹が痛い。  やっぱり、ダメ。情けなさに、ぎゅっと目を閉じる。  気づいたら、ベッドの上だった。時計を見たら、11時を回ってる。  もう一度布団をかぶった。  ……休んじゃった。  どうして。どうしてわたしは、いつもこんななんだろう。  肝心な時に、何もできない。最悪なタイミングで逃げて、迷惑かけて。  合唱団をやめた時も、そうだった。  大事なコンサートの直前。ふいに『もうムリだ』って言葉が頭の中に浮かんで、衝動的に宣言してしまった。  周りの大人たちから、引き留められて、責められた。でも全部、後先考えずに振り切った。逃げて、逃げて、逃げて。最後はみんな呆れて、気味の悪いものを見るような目で、捨て台詞を吐きながら離れていった。  全部全部、壊れてしまえ。そう思ってた。だから、全員にあきらめられて、その瞬間は、勝った、と思った。スッキリして、わたしはもう自由だ、って、明るい気持ちになった。  でも。それは、つかの間のことで。  残ったのは、過去に囚われたままの、怖がりで、それ以外は空っぽの自分。  思い出しながら、ヒザを抱えこむ。  電気を消してカーテンを閉じた部屋は暗い。かけ布団の下に頭までうずめると、なおさらだ。  そんな場所に、わたしはひとり。動けなくなっていた。
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