1人が本棚に入れています
本棚に追加
痛めたノドは、しばらく治らなくて。
文化祭に向けた合唱練習では、ずっと縮こまってうつむいていた。
わたしの周りにいたクラスメイトたちが、事情を知った上でフォローしてくれたから、非難の目を向けられたりはしなかったし、先生や他クラスの子たちには気づかれもしなかった。でも、それがありがたいと同時に申し訳なくて、ずっと泣きそうだった。
それは結局、文化祭当日まで続いて。
「う……」
準備を整えて家を出ようとした瞬間、わたしは玄関でしゃがみ込んでしまった。
お腹が痛い。
やっぱり、ダメ。情けなさに、ぎゅっと目を閉じる。
気づいたら、ベッドの上だった。時計を見たら、11時を回ってる。
もう一度布団をかぶった。
……休んじゃった。
どうして。どうしてわたしは、いつもこんななんだろう。
肝心な時に、何もできない。最悪なタイミングで逃げて、迷惑かけて。
合唱団をやめた時も、そうだった。
大事なコンサートの直前。ふいに『もうムリだ』って言葉が頭の中に浮かんで、衝動的に宣言してしまった。
周りの大人たちから、引き留められて、責められた。でも全部、後先考えずに振り切った。逃げて、逃げて、逃げて。最後はみんな呆れて、気味の悪いものを見るような目で、捨て台詞を吐きながら離れていった。
全部全部、壊れてしまえ。そう思ってた。だから、全員にあきらめられて、その瞬間は、勝った、と思った。スッキリして、わたしはもう自由だ、って、明るい気持ちになった。
でも。それは、つかの間のことで。
残ったのは、過去に囚われたままの、怖がりで、それ以外は空っぽの自分。
思い出しながら、ヒザを抱えこむ。
電気を消してカーテンを閉じた部屋は暗い。かけ布団の下に頭までうずめると、なおさらだ。
そんな場所に、わたしはひとり。動けなくなっていた。
最初のコメントを投稿しよう!