第1話

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「おはよう!」 「おはようございます!」  門の前に立った先生が、登校してくる生徒たちと挨拶を交わしている。そんな場所を慎重に、足早に通り過ぎた。  廊下で先生とすれ違う。 「おはようございます」  声をかけられて無言で礼を返すと、眉をひそめられた。  クラスで席に着く。 「お、平坂ちゃんじゃん。おっはよ~!」  戸畑さんと仲良しの小倉(おぐら)ノドカさんが挨拶してくれた。でも、わたしはとっさに返事ができないで曖昧な笑顔をつくる。  小倉さん、ニコニコ笑ってるけど、戸畑さんと同じように『感じワル』って思ってるんだろうな。  最近、声が出なくなった。なにかしゃべろうとするたびにノドと胸がきゅっとなって、言葉が引っ込んじゃう。 「はあ……」  ため息をついて、机につっぷした。 ♪ ♫ ♪ ♬  音楽の授業、か。  胸に抱きかかえていた教科書を開く。ちょうどそのページに載っていたのが合唱曲で、思わずパタリと閉じてしまった。  教室移動しなきゃいけないけど、第2音楽室ってどこだろう。というか、音楽室がいくつもあるんだね、中学校ってすごい。 「ね〜、次の授業どこであるんだっけ」 「第2音楽室、あそこだよね? 家庭科室の真上」 「家庭科室って。ハルカ、家庭科室にも調理室と被服室があるじゃん」 「あ、そっか」 「第2は被服室の方の、真上じゃなくてとなり、ね」 「お、スゴ。ミア、さすがだね~! よっ、しっかり者!」 「大げさだって。ノドカ、恥ずかしいからヤメテ」  戸畑さん、小倉さん、そして北方(きたがた)ハルカさん。それぞれテニス部、陸上部、バレーボール部に入っているスポーツ少女の仲良し陽キャグループだ。  同じクラスだから当たり前だけど、3人もこれから第2音楽室に移動するみたい。わたしはさりげなくついて行く。視線を外し、距離をおいて、連れにもつきまといにも見えないように注意しながら。  ……最近、こんなのばっかり。声が出なくなったせいで。  わからないことがあったら、それを話題にしている人を探して聞き耳を立てる。道がわからないときは、同じ所を目指していそうな人のあとをつける。  必要に迫られてやってることなんだけど、我ながら趣味が悪い。  ……それにしても、音楽か。  やっぱり、合唱とかするのかなあ。  もう二度と、やりたくないのに。  
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