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「おはよう!」
「おはようございます!」
門の前に立った先生が、登校してくる生徒たちと挨拶を交わしている。そんな場所を慎重に、足早に通り過ぎた。
廊下で先生とすれ違う。
「おはようございます」
声をかけられて無言で礼を返すと、眉をひそめられた。
クラスで席に着く。
「お、平坂ちゃんじゃん。おっはよ~!」
戸畑さんと仲良しの小倉ノドカさんが挨拶してくれた。でも、わたしはとっさに返事ができないで曖昧な笑顔をつくる。
小倉さん、ニコニコ笑ってるけど、戸畑さんと同じように『感じワル』って思ってるんだろうな。
最近、声が出なくなった。なにかしゃべろうとするたびにノドと胸がきゅっとなって、言葉が引っ込んじゃう。
「はあ……」
ため息をついて、机につっぷした。
♪ ♫ ♪ ♬
音楽の授業、か。
胸に抱きかかえていた教科書を開く。ちょうどそのページに載っていたのが合唱曲で、思わずパタリと閉じてしまった。
教室移動しなきゃいけないけど、第2音楽室ってどこだろう。というか、音楽室がいくつもあるんだね、中学校ってすごい。
「ね〜、次の授業どこであるんだっけ」
「第2音楽室、あそこだよね? 家庭科室の真上」
「家庭科室って。ハルカ、家庭科室にも調理室と被服室があるじゃん」
「あ、そっか」
「第2は被服室の方の、真上じゃなくてとなり、ね」
「お、スゴ。ミア、さすがだね~! よっ、しっかり者!」
「大げさだって。ノドカ、恥ずかしいからヤメテ」
戸畑さん、小倉さん、そして北方ハルカさん。それぞれテニス部、陸上部、バレーボール部に入っているスポーツ少女の仲良し陽キャグループだ。
同じクラスだから当たり前だけど、3人もこれから第2音楽室に移動するみたい。わたしはさりげなくついて行く。視線を外し、距離をおいて、連れにもつきまといにも見えないように注意しながら。
……最近、こんなのばっかり。声が出なくなったせいで。
わからないことがあったら、それを話題にしている人を探して聞き耳を立てる。道がわからないときは、同じ所を目指していそうな人のあとをつける。
必要に迫られてやってることなんだけど、我ながら趣味が悪い。
……それにしても、音楽か。
やっぱり、合唱とかするのかなあ。
もう二度と、やりたくないのに。
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