第2話

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 最悪なことに、音楽の授業はしょっぱなから合唱だった。  女子はソプラノとアルトの2つ、男子は全員テノール。パート分けをし、それぞれのパートでパートリーダーとCD係を決める。  それが終わったらパート別にCDで音程を確認しながら練習だ。  わたしはアルトへ入ることにした。ソプラノはムリ。高い声を出すのが苦手だから。  とは言っても、最近は声自体が出なくなっちゃってるくらいだから、どちらに入ろうと大して変わらない気がするけどね。  ちなみに、アルトのパートリーダーは戸畑さんに決まった。小倉さん、北方さんも同じくアルトだ。  きっと、3人で示し合わせたんだろうな。そういうことは良くないって(いきどお)るべきなんだろうけど、今の状態ではそんな気になれない。うらやましい、って思っちゃう。 「……はあ」  最近わたしが声に似たものを発するのは、もっぱらため息をつくときだ。  合唱、か。上手く乗り切れればいいけど。  そう思ったものの、やっぱり、歌声は1ミリも出なかった。  家に帰るなり、冷蔵庫を開ける。取り出したのは、合唱団時代にお世話になっていたノドアメ。合唱団を急にやめたせいで、未開封のが残っていた。  バリバリと荒っぽく袋を破き、中の個包装をテーブルにぶちまける。そのうちの1つを手にとって、中身をつまみ上げた。  深みのある琥珀色をした四角いアメ。口に放り込むと、ミントの辛味がノドを焼く。シゲキの強い香りは鼻に抜け、息を吐いたら目までツンとした。  なじみの感覚。合唱団に入っていた頃のわたしは常に、ノドの痛みに悩まされてた。そのせいで、特別に好きってワケでもないのにこのアメが手放せなかったんだよね。  ……こんなことしたって、声が出るようになるワケじゃないのに。  ため息をついてソファーに沈みこむ。そして、いらだちをまぎらわそうと、口の中のアメを乱暴にかみくだいた。 ♪ ♫ ♪ ♬  スカートが巻き上がる。ここはいつも風が強い。  中庭で、吹奏楽部が朝練のマーチングをしている。わたしはそれを、4階東側の渡り廊下から見下ろしていた。  つらくはないのかな。  「役に立つ」っていう概念はないくせに、「役立たず」は責められる。ひたすら足並みをそろえて、個性を消して、みんなに合わせるのが正義。良い意味とか悪い意味とか関係ない。目立つの自体がいけないこと。そういう部分は、合唱団とおんなじだろうに。  わたしはもう、こりごりだね。
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