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何回目かの音楽の授業。
先生の指示で、1回全パート合わせて歌ってみることになった。
「う〜ん。アルトさん、声が聞こえませんねえ。他のパートにつられないように頑張ってください」
その授業が終わった直後。
「ちょっと、アルト集合!」
戸畑さんが号令をかけた。
クラス内のアルトパートメンバーが、全員で車座になる。
「アルト、別に他のパートにつられてるワケじゃないんだよね。もとから声がちっさいの」
戸畑さんが切り出すと、
「ミアの言うとおりだと思う」
北方さんが真剣な顔でうなずいた。
「でもさ〜。アルト、もとからの人数が少ないから、仕方ない部分もあるんだよね~」
小倉さんが、場をとりなすように口を開く。
「コラ、少数精鋭と言え」
すると、戸畑さんはイラついた様子で、消極的な意見をバッサリと斬り捨てた。でも小倉さんはひるむ気配もなく、笑顔のまま続ける。
「うん、そ〜かもね。ひとりひとりはすんごく上手いから、もっとおっきく声出していこ〜!」
小倉さんのおかげで、雰囲気がふわっと明るくなった。
みんな、前向きな表情で顔を見合わせている。
「んじゃ、そういうことで。解散解散」
北方さんが気だるげに手をたたいたのを合図として、アルトパートメンバーは散っていった。
♪ ♫ ♪ ♬
音楽の授業があるたび、アルトの声は大きくなっていった。もとからよかった音程もさらに安定感を増して、『こんな短期間でこれだけ成長できるなんてすごい!』って素直に尊敬できる。
でも、他のパートに負けて、かき消されているのはあいかわらずだった。
そして、頑張るパートメンバーの様子を、わたしは他人事のように眺めている。それも、あいかわらずだった。
そして。
ついに。
「平坂ちゃん、ちょっとこっち来て」
北方さんが、感情の見えない顔で手招きした。
イヤな予感しかしなかったけど、素直について行く。
その先には。
ピリピリムードの戸畑さんと、困ったような小倉さんがいた。
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