第2話

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 わたしはじっと床を見ていた。  すぐ前には戸畑さん、小倉さん、北方さん。1の7アルトパートの中心人物となっている、体育会系陽キャ女子3人組だ。  わたしは、その顔を見ないようにしていた。  言われることはなんとなく予想がつく。 「最近、アルトのみんな頑張ってるよね」  北方さんが切り出した。 「それな」 「うん、そうだよね」 「…………」  戸畑さんと小倉さんは相づちを打つけど、わたしはなんにも言えない。 「でもさ、それ、全員じゃなくない?」  次は戸畑さんが、わざとらしく話を進めた。 「ホンット、それ言えてる」  北方さんが即座にうなずいて、 「……まあ、確かにね」  小倉さんも、ためらいながら肯定する。  3人の言わんとすることはとっくに理解していた。でも。 「………………」  わたしは、なんにも反応できなかった。  そんな態度にじれたらしい。戸畑さんはついに、ストレートな言葉を放ってくる。 「アンタさ。合唱、真面目にやってないでしょ。もっと声出してよね」 「……………………」 「ねえ。……ねえ! なんで無視すんの!」  怒鳴られて、わたしは肩をビクリと震わせた。 「か、かわいそうだよ……やめてあげようよ……!」  小倉さんはさすがに不安を感じたみたいで、止めに入ってくれる。けど、頭に血がのぼった戸畑さんには聞こえていない。  ガッと肩をつかまれて乱暴に揺さぶられる。 「ねえ……ねえ、ねえってば! 聞いてんの!? 返事くらいしなよ!!」  ガクガクと頭が振り回される。視界がぶれて、気分が悪くなってくる。 「ミア、やりすぎ」  北方さんが引きはがしてくれたとたん、わたしは地面にひざをついた。 「大丈夫?」  小倉さんがわたしの背中に手を置いて心配してくれる。でも、 「……」  のぞき込んできた彼女を無言で一瞬にらみ、他の2人にも同じ目を向けたあと、わたしはその場を逃げ出した。 「……なにあれ。感じワル」  戸畑さんの声が聞こえたけど、言われ慣れた悪口に心はちっとも動かなかった。
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