サプライズパーティ

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サプライズパーティ

 ある日ある場所で、防犯教室が開かれた。  教壇に立っているのは、自称犯罪学者とかいうセンセイだ。  しかし、講義を受けに来たのは、なぜか俺ひとりだった。  センセイは言う。 「人は、誰もが他人を騙したいと考えています」  俺はつっこむ。 「考えてねーよ!」  つっこみは無視して、センセイは続ける。 「その裏返しで、騙されたいとも思っています」 「思ってねーよ!」 「誕生日などの、サプライズパーティがいい例です」 「そんな経験ねーよ!」 「ありませんか」 「ないね!」 「あなた、誕生日はいつですか?」 「先週だよ! 何もなかったよ!」 「それなら、今やりましょう」 「何を!?」 「サプライズ!!」 「えっ!?」 「誕生日、おめでとうございます!」  センセイが、どこからかケーキを取り出した。  よく見ると、チョコレート製のプレートに、白いクリームで『Happy Birthday!』と書かれている。しかも、俺の名前入りだ。 「こ、これは!?」 「実は、あなたの友人たちに頼まれましてね」 「えっ!? それじゃ、みんなも来てる!?」  はっとして扉を見るが、特に変化はない。 「ああ、みなさん、用事がおありとのことで、それでワタシが」 「そうなんだ……」 「ガッカリしないでください。祝ってもらえるだけでも、幸せですよ」 「そ、そうだな!」 「では、ワタシは次の予定がありますので、これで」 「え!? 帰っちゃうのか!」  その言葉に、センセイは足を止めて、懐に手を入れた。 「そうそう、これを……忘れるところでした。あなたの友人たちからです」  小さな紙きれを取り出し、俺に手渡すと、さっと逃げるように去っていった。  それは、ケーキ代と記された俺宛の請求書だった。 「騙された!」  思わず声が出る。  俺の支払いのケーキで、俺ひとりでパーティ。どんなサプライズだよ! と考えながら、ひとり静かにケーキを食べた。  なぜか、しょっぱい味がした。 <おしまい>
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