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「ヴィンセント。お帰りなさい。」
………え?
気がついたら、ヴィンセントはまた、あのエーセンの町にある二階建ての家の前にいた。
今度こそ死んだと思っていたのに。
リアだ。リアがいる。
彼女はイヴではなく、彼女のままでそこにいる。
美しい銀糸のようなホワイトブロンドの髪に、青空のような、または彼女が好きなネモフィラの花の色をした、ターコイズブルーの瞳。
白い肌。優しげな目。微笑む口元。
華やかながらもシンプルなワンピース姿がよく似合っている。
あの時豊穣祭で着ていた服に似ている。
「……ただ、いま。」
訳が分からない。
ヴィンセントはリアが笑いながら手を差し伸べているのを見て、不器用ながら自分も微笑み返した。
そこにもう一人の影が現れた。いや、違う。
二人いる。
「お帰りなさい、おとうさん。」
「お帰りなさい。パパ。」
自分をパパと呼ぶ、アイスシルバーの髪に、宝石の様に綺麗な赤い瞳をした小さな女の子。
その隣にいるのは、リアによく似た男の子。
「この子達は一体……」
無邪気に、ヴィンセントの片手に掴まって戯れる、見た事もない子供達。
首を傾げたヴィンセントの目の前で、リアが笑う。
「何を寝ぼけているのよ、ヴィンセント。
二人とも貴方と私の子供でしょう?」
「あれ……そうかな。
そう……だったかな。」
「そうよ。とにかく早く家に帰りましょう。
ヴィンセント。
早く帰って、美味しいご飯を食べましょう。」
リアの華奢な手が、ヴィンセントの手を掴んだ。
その手はもう一生離れないのではないかというくらい、しっかりと繋がれていた。
……温かいな。
自然とヴィンセントの瞳から涙が溢れた。
これは嬉しい時に流れる涙だ。
「そうか。俺には帰る家があったんだ。
ここが、帰る場所だった……
こんな風に、帰る家がずっと欲しかった。」
温かい家。愛おしい妻が幸せそうに笑っている。
無邪気で可愛い子供達がいる。
……帰ってきたよ。もうずっと、ここにいる。
本当に、幸せだ……………………………
◇
ヴィンセントが亡くなった数ヶ月後、リアは無事に子供を出産した。
男の子と女の子の、双子だった。
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