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いや……とテオはもう一度首を横に振る。
騎士団と一緒に現場で処刑後の処理を行っていたテオは、ヴィンセントの遺体を見た時、何故か違和感を覚えた。
確かにヴィンセントは首を落とされ、死んでいる。
なのに。
ふと、ヴィンセントの死体の下にあった地面が目に入る。
よく見なければ分からないが、確かにそこには薄っすらとした黒い亀裂が入っていた。
亀裂をなぞると、それは人が一人通れる程の大きさだった。
まさか……とテオは自身の目を疑い、ヴィンセントの遺体を調べる事にした。
テオは、先程ビズーミエ行きの船に乗ったリアを思い浮かべながら、ルーカスの乗っている馬車と共に雨の中、馬を走らせていた。
リア。テオにとってかけがえのない、可愛い妹。
純粋な心を壊され、憎しみを知り、自分を陥れた者達に残酷な処刑を施した、変わり果てた妹。
その後調べたヴィンセントの遺体は確かに、人間の死体の様だった。
だがその体を解剖すると、リアが扱うあの魔力の蝶の様なものが詰まっていた。
結果的にそれが何だったのか知る事はできなかったが、その後ヴィンセントの遺体と思われる首と、切り離された体は人の目に触れる事もない墓地に密かに埋葬された。
そしてテオは、解剖に立ち会った医師にこの事は秘密にする様にと頼んだ。
しかし、一度生まれた疑問は決してテオの頭から消えなかった。
そうしてテオはこの日まで、これまでに起きた様々な状況を照らし合わせて、とある結論に至っていた。
誰にも明かせないリアの秘密。
これはリアが密かに子を産み、育てる事よりも重大で、さらには帝国を再び混乱に陥れるかも知れない。
もし、その全てがテオの想像通りだとしたら。
リアが予め、全てを計画をしていたのだとしたら……
一体、——————いつから?
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