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◇◇◇
テオ・フロース・プリマベラは、あの日以降ずっと違和感を感じていた。
あのヴィンセント・ロイド・バーリッシュをリアが処刑した時から。
あの時、ヴェレーノを処刑した部屋でリアは確かにヴィンセントの首を切り落とした。
通常なら貴族女性が剣だけで、人の首を切り落とす事はまず無理だ。
どんなに剛腕な男性でも、処刑用の斧でもない限りアーミングソードで一撃で首を切り落とすのも不可能だ。
だが誰もが未知のヴィンセントの魔力を恐れ、報復を恐れた。
帝国魔術師はおろか、処刑人すらも。
だから結果的に、唯一黒の魔力に対抗できるリアが自ら処刑する事になってしまった。
テオ達は勿論反対したが、リアは一歩も譲らなかった。
「私がヴィンセントを殺します。
これは復讐なのです。」
確かにテオは、何もリアの憎しみが分からない訳ではない。
むしろテオやルーカス達の方が、ヴィンセントをその手で葬り去りたかった。
ただへーリオスでヴィンセントがリアを騙し、以前大切にしていた護衛騎士のシルトを殺したと知った頃から、リアが頻繁にヴィンセントを憎いと口にしたのを覚えている。
幼い頃のリアは、テオにとっても天使みたいな存在だった。
父のルーカスや母のシェーンの良いところを存分に引き継ぎ、美しい容姿をして生まれた。
その容姿に似合う、綺麗で純粋な性格に育ったリアは、テオにとって自慢の妹だった。
「お兄様は将来、帝国一の騎士団長になるのですよね。」
「ああ。そうだよ。
リアこそ、帝国一の尊い女性になる身だろう。」
やがてツァールトハイトの婚約者となったリアの輝かしい未来を、テオも信じて疑わなかった。
どちらも高貴な身分でありながら、傲慢で人を傷つける様な人間ではなかった。
だからテオは本気で、二人には幸せになって欲しかった。
だがある時リアは、ツァールトハイトを裏切ったと言って泣いていた。
その兄であるヴィンセントと合意の上でキスをしてしまったと。
何故そんな事になったのか、テオ達には全く分からなかった。
リアがツアールトハイトを裏切るなど、信じられなかった。
だけど、テオはリアに尋ねられなかった。
歳の近いリアに、テオは確かに甘い部分もあった。
泣いているリアを慰める方にだけ気が向いてしまった。
けれど確かにテオは、リアがヴィンセントに惹かれているのを感じていた。
だからずっと疑問を抱えたまま、テオはそれをリアに聞く事ができなかった。
あの地下室で、リアが冷たい瞳でヴィンセントの首を切り落とした時、これで全てが終わったと思った。
確かにヴィンセントの首は地面に転がり落ち、切り口からも体からも血が流れた。
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