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でもイヴは結局いつもの様に壁を作る。
分かってる。
彼女の心は今もヴィンセントにズタズタに引き裂かれたまま。
こんなに側にいるのに精神的に何の力にもなれないのが悔しい。
「イヴ。もっと俺を頼れ。いいか?」
本心からそう思っているのに。
「ありがとう。ツァールトハイト。
そうね。貴方は私の大切な友人だわ。
もし今度困った事があったら頼るわね。」
それが本心ではないと分かる。
君の事はもう長い間見てきたから…
寂しいな。
やはりまだ俺を頼ってはくれないのか———。
いつも無理に笑顔を作る彼女を見て心が傷む。
それに俺を頼ってくれない一番の原因は、中等部時代にヴィンセントに無理矢理キスされて婚約破棄を申し立てた罪悪感のせいなんだろう。
君のせいじゃない。
何もかも悪いのはヴィンセントだったのに。
よく調べもせず君を手放した俺のせいだったのに。
深く傷ついたイヴは今だに俺にさえ距離を取る。
友人としても否定されているのではと、とても不安になる。
それに今は誰に接するのも怖い筈だ。まだ心の傷が癒えてないのも知ってる。
だから……彼女に無理に自分の気持ちを押し付ける事はしない。
今は生きてくれているだけでいい。
それだけで……。
◇◇
学校を後にして、二人して馬車を捕まえるために大通りに出た。
雨はすっかり上がっていた。
馬車の前で彼女に手を振り注意を促した。
バーリッシュの皇室が……イヴを探している可能性があると。
だから気をつけろと言ってツァールトハイトはイヴを見送った。
そして背後について回っていた公爵家の護衛騎士に目で合図を送り、目立たない馬車を用意させてそれに乗り込んだ。
イヴを襲った奴らの正体と目的の解明に庁舎に向かう予定で。
だが———。
「ツァールトハイト様!危ない……!!」
周辺にいた護衛騎士の一人が叫んだ。
乗り込んだ馬車はひと気のない場所で、黒のローブを着た不審な男達によって襲撃を受ける事になる。
無惨に馬車は横に傾き、ドアをこじ開けた男が鋭い剣をツァールトハイトに向けた。
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