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──大嫌いだ。
その、わたあめみたいな花が俺は大嫌いだった。
今年もやってくる。
ピンクの花を満開に誇らせ、ひらひらと儚く散る。俺がもっとも嫌いな時期。そう桜の季節が……。
*****
──2012年
「ピンクの筆箱が落ちてるけど誰の」
永田駆は廊下に落ちているサーモンピンクの筆箱を拾い、1年3組の教室を見回した。
「ピンクだから、これ女のじゃねーの」
言うが返事がない。怪訝に思いビーグル犬のように首を傾げた。
「永田君、それ深森さんのじゃない? 音楽の授業で見たことあるよ」
と近くにいたクラス委員の陽子が友達と話ながらつまらなそうに言った。
「そうなん。──って居るじゃん。深森。このピンクの筆箱、お前のじゃないのか」
「えっ……」
深森咲楽は目を見開き、一瞬、なにを言われたのか、わからないような顔をした。
「あ……ありがとう」
声ちっさ。なんだよ拾ってやったのに。
何故か深森に微妙な顔をされ、俺は不快に思った。しかし、元来の人当たりの良さから、愛想笑いを浮かべ爽やかに「ほら」っと渡した。
前髪で瞳を隠し、うつむき加減に深森は筆箱を受け取る。
どうにも変な奴だ。
深森は今年の秋に親の再婚で転校して来た生徒だ。物静かで話かけてもボソボソしている。つねに人と距離を置きクラスに馴染めず、時々そこに居るのもわからない。転校そうそうは女子に質問攻めにされていたが、今じゃ誰も深森を相手にしない。
きっちりした三つ編みに、見えにくそうな前髪は顔の半分を隠している。細身で、制服も崩さず着こなす、お堅そうな奴だ。
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