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知らず知らず俺は赤の見えにくい深森を馬鹿にして笑ってたんだ。
「俺、そんなつもりじゃなかったんだ」
「だろうな。きっとその子もわかってるさ」
もやもやとする。
「なんだよ、だったら深森の奴。言ってくれればいいじゃん」
兄は渋い顔をする。
「中学1、いや、もうすぐ2年生かぁ。お前、小3のときにホラー映画見て、怖くてトイレに行けなくなって、膀胱炎になったことあるだろう。あれ、みんなに理由を言ったか」
「は……恥ずかしくて言えるわけないだろう」
「だろうな。もしかしたら、その子もそう思ってるんじゃないのか」
俺は黙った。
前髪を伸ばし、いつも下を向く深森。
「もしかしてみんなに知られたくないのか」
「だろうな」
パタンっと兄は本を綴じた。
「今の時代、色覚検査は廃止されている。その理由が検査によって発見された色覚異常の子供が虐めに合うことがあったからだ」
「そうなの」
これは2012年時点の話だ。のちに知ることになるのだが、色覚検査が廃止されたことにより色覚異常が発見出来ず就職先や進学に影響がでたことから2014より小学生の色覚検査が再開された。今の俺たちは知らないことだ。
──兄は簡単に
「その子の力になってやれよ」
なんて言った。
俺の心は砂嵐のように荒れ狂っていた。
力になれったって、どうすればいいんだよ。
だって知られたくないんだろう。下手に声をかけたら俺が知ってるってバレちゃうじゃん。
また、涙目の深森が浮かんだ。
なんだよ。泣くなよ。
さりげなく傷つけたことに大きなトゲが何度も俺の心を容赦なく刺してくる。
ぶす。ぶす。ぶす。
わかってるよ。助けてやりたいよ。でもどうすればいいんだよ。
その晩。ベッドに横になり俺は悶々としていた。布団にくるまり考えた。でもなにも浮かばず無情にも時間だけが過ぎていった。俺はその日からカタツムリのように殻に引きこもった。
なにも出来ず、ただ触角だけを伸ばし深森を遠目で観察する毎日だった。
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