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──ピンポン。
家のチャイムが鳴った。すぐに母に呼ばれ、俺はぶつぶつと文句を言いながら髪の乱れを手櫛で直し玄関に出た。
息が止まるかと思った。目の前には深森が立っていたからだ。
「永田君。ごめんなさい」
突然、謝られて俺は焦った。
「ちょ、ちょ。なに? どうしたん」
深森は顔をあげて、言いにくそうにしていたが、心が定まったのか、すらすらと話だした。
「あなたの言う通りだったの。その……新しいお母さんがね、異変に気がついてたんだ。それでね。わかったうえで話してくれて、私の目のこと普通の子だって言ってくれたんだ」
俺は嬉しさが込み上げてきた。
「良かったじゃん」
深森は嬉しそうに微笑み頷いた。
「お父さんとも話し合ったの。気づいてあげられなくてごめんって逆に謝られちゃった。私が隠してたからいけないのに」
「それは、深森の優しさからだろう」
深森は大きな目を見開いたあと、柔らかく細め、ちいさな手のひらを組んだ。
「ありがとう永田君。もっと早くにお父さんに話てればよかったって今は後悔してるんだ。それでね、色覚補正メガネを作ろうって話になったの」
「そうなんだ」
前向きな深森は初めて見る。
「私知りたいの、桜の花の本当の色」
「え。桜?」
予想外な言葉に驚いた。
俺は桜が嫌いなんだけどなぁ。なんて言えなかった。
「私の名前は、桜の花からつけられているんだって、お父さんが言ってた。亡くなったお母さんが1番好きな花が桜だったんだ。だから桜の花のように咲き誇り、いつも楽しい気持ちでいられるようにって、咲楽って私をつけたんだって」
「そうだったんだ」
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