幽霊の涙

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 さておき──季節は立春だ。  だらけた冬休みはとっくに終わり、ようやく鈍った体が通常運転する2月。バレンタインの話に盛り上がる女子のワクワク声が聞こえるなか、駆はそろそろ憂鬱な季節到来だ。 「ヤベ目が痒くなってきた。駆。お前の家って何時からやってるっけ?」  そらきた。  秋もそれなりに混雑する。しかし春の方が数倍人が混む。今年の量は去年の3倍だとか……桜が咲く頃にはピークを迎えるだろう花粉症。  いやだねぇ。1年で1番嫌いな季節だよ。はぁ。また父さんの機嫌が悪くなるな。俺はブルーな気分になった。 「永田眼科は9時からだよ。言っとくが自分で予約しろよ。じゃないと父さんに怒られるの俺なんだからなぁ」 「わかってるって」なんて軽く言う友人に、本当に頼むよっと思い「よし」っと頷いた。  そう俺は眼科医の息子だ。末っ子でお馬鹿なので継ぐのは兄。跡継ぎが決まっているので父も兄ばかり相手にするので気楽でいい。  とはいえ、医者の息子はそれなりに面倒で、ご近所に噂が立つような失態をしてはいけない。  そうじゃないと、生真面目な父の雷が落ちる。しょうがなく俺は、いつだって人当たりよくしているのさ。揉めごとなんてしてみろ、父からお小遣いを没収させられる。──そうさ、小学生のとき些細なことで同級生と殴り合いの喧嘩をしたことがあった。はっきり言って未だにそいつのが悪いと俺は思っている。しかし父は暴力自体が駄目だ「家は医者だぞ」っと世間体を気にした。
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