幽霊の涙

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「引き受けてしまったんだろう。見てやる。だか、こんなことは2度とないと思え」  ぶっきらぼうに父は言い。いつもなら俺が居たたまれなくなり逃げるのに、父は照れ隠しのようにリビングから出て行こうとしていた。  俺は嬉しくて満面の笑みをして「ありがとう」と言った。父は首だけで振り返り、難しそうな眉が一瞬下がり口角が少し上がった気がした。そのままリビングを出て行った。  父さんってこんな風に笑ったっけ。  俺は何年ぶりかに父の笑ったところを見たと思った。  決まればトントン拍子で話が進んだ。義母に連れられて深森は永田眼科に訪れた。やはり検査の結果は色覚異常とされた。父の進めで専門のメガネを作ることになった。 「これが赤?」  深森はメガネを着けて真相驚いたと言う。 「色鮮やかとは聞いていたけど、こんな色だったんだってそのとき思ったの」  俺の家に報告に来て深森は教えてくれた。  その言葉を聞いた時、俺は初めて父の仕事を誇れた。  くしゅん。  相変わらず花粉症で訪れる患者は多い。院内に入っていく患者を見やり、ふふっと嬉しそうに深森は笑い、俺の手を握った。なんだか普段と見慣れた景色がいつも以上に色づいて見えた。  なんだこれ。  俺も花粉症になったのか。 「ありがとう永田くん」  じんわりと感じる深森の手が気持ちが良くて、体が熱くなる。 「それでね。今ね、家族と花見をしているの」 「へぇ。抜け出してきて良かったの?」 「うん。ちゃんと断ったから」 「どうだった。桜」 「茶色」 「え!」 「ふふ。まだメガネつけて見てないの」 「なんで」 「永田君と見たかったの」  どくんっと心臓が跳ねた。
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