5人が本棚に入れています
本棚に追加
なんだよ。世間体。世間体ってマジでムカつく。が、なけなしのお小遣いを3ヶ月もおあずけにさせられたので、もう二度としないと誓った。
さてと、眼科にとって春は1年で最も忙しい時期だ。ピークを迎える花粉症に、忙しい父の機嫌は日に日にピリピリも急上昇するだろう。
だから桜の時期は嫌いなんだ。だってまた始まるんだぜ。父の様子を伺う毎日が。
気鬱になりながら小さくため息を吐くと、どこからか視線を感じた。
んっ?
俺は辺りを見回す。するとさっき筆箱を渡した深森が、何か言いたそうに俺をじっと見つめていた。
「どうした? お前も眼科に用事か?」
深森は声も発せず首を振る。
なんだかなぁ。こいつ苦手かも。そういえば、こいつの下の名前は咲楽だっけ。
苦手なはずだ。
──俺はその時は知らなかったのだ。些細な言葉が人を傷つけることを。
*****
土曜日の正午前。天気は晴天。俺は友達の優とデパートのゲームセンターに遊びに来ていた。
「優。俺トイレ言ってくる」
「おう、行ってこい」
クレーンゲームに夢中の優を置いて、俺はキラキラと光るゲームセンターをあとにした。トイレから出ると、どんっと誰かと鉢合わせる。
「おっと! すみませんって深森じゃん」
「ごめんなさい」
一瞬誰かわからなかった。
最初のコメントを投稿しよう!