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「──ばか野郎。信号赤だぞ。死にたいのか」
下校の帰り道、赤信号を渡ろうとした深森が、口喧しい太郎じぃに怒鳴られていた。交通安全だとかで自主的に活動している変わったじぃさんだ。俺も車通りが少ないからいいやって思って渡ろうとしたら、こっぴどく叱られたことがあった。
「すみません」
萎縮しながら深森は謝る。どうやら技とじゃないらしい。太郎じぃは安堵し「気をつけなさい」と言い、深森の肩を2度、励ますように叩いた。
やっぱり深森はどんくさいと思う。
俺は寒さで鼻を擦りながらその様子を遠目で見ていた。
深森はまたしても、うつむき、青いマフラーを顎辺りまで引き上げ信号待ちをする。パッと青になる。それなのに信号を渡ろうとしない。
まったく。下ばかり見てるから気がつかないんだよ。
俺は深森の横を友達の優と喋りながら通り越した。ようやく気がつき深森も信号を渡る。
変な奴だ。
「──ってことがあったんだよ兄ちゃん」
「お前なぁ。勉強聞きに俺の部屋に来たんだろう」
「だってさ、深森の奴マジで、どんくさいんだって、見ててイライラする」
「ふーん」
夕食後。数学の宿題を思いだし、兄の真司の部屋を訪れた。兄とは5歳違いだ。雑で騷しい俺の性格と反対で、兄はおっとりとしている。なんにしても父なんかよりも、側にいると落ち着くので、もっぱら兄のもとばかり訪れる。
兄はゆっくりとしたバラード曲を聞きながらスマホで彼女にメールを送っていた。打ち終わるとすぐに話を聞く体制をしてくれた。
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