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「そうだな。色覚異常の人は赤と緑の区別が見えにくいらしいぞ。ほらこの本を見てみろよ」
兄に進められ本を見た。カップを置くコースターのような丸のなかに、水玉の模様が散りばめられ、赤や緑や茶色などのトリックアートのような色盲検査の図柄を見せられた。
「色んな色が見えるだろう」
「うん。真ん中に数字が書いてある」
「そうだ。通常の人はたくさんの色に見えるけど、色覚異常の人はこれらが灰色に見えるらしいぞ」
「えっ」
「次のページめくるぞ──ほら、信号見てみろよ」
「なんだよコレ。赤と緑の信号の区別がつかないじゃん」
「そうだ」
「あっ」
そこで今日の深森の行動と合点がいった。──まてよ。じゃあ、あいつはおっちょこちょいなんかじゃなくて見えにくかっただけなのか。
「苺は赤。美味しそうな赤と、まだ青い苺の区別がつかなかったんじゃないのか」
俺は驚き口を抑えた。
「可愛そうにな。個性なのに陰で笑われ、幽霊なんてあだ名付けられて。お前。この前その子とトイレで鉢合わせしたって言ってたよな」
俺は心臓をばくばくさせながら顔をあげた。兄はしっかりと俺を見て
「トイレのマークは何色だ」
と問うた。
はっとした。──そうか女子のマークは赤。見えにくかったんだ。そして俺は思い出す。『ははは。なんだ深森って、おっちょこちょいなんだな。しっかりマーク見ろよ』と笑い飛ばした。ああ、だから深森は傷ついて涙目になったんだ。
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