連還する記憶 ⑤

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それは人工知能固有の危険性であって、ヒトの知能にかぎってそのようなことはあり得ない、という考えもあるでしょう。 しかし、ヒトの知能にも、それに勝るとも劣らない脆弱性、潜在的で致命的な危険性が存在しているのです。 <開かれた集積回路で進化する観念記憶> ヒトの知能は、生命記憶、存在記憶、観念記憶の連還回路で、三つの記憶がたえず疎通しあう、常に開かれ進化する知能体系を形成しています。 ところが、開かれた集積回路で進化するはずの観念記憶が、一瞬のうちに、閉ざされた集積回路内で完結する観念記憶に様変わりすることがあります。生命体と同じ時間と空間を共有しない記憶に変質してしまうのです。 なぜか? 観念記憶の集積回路を開く、閉じる、のどちらかを選択し決定するのは、知能体系を運用する主体である当の生命体、あなた、だからです。 もしあなたが、世の中の悪を正し、公平で正しい社会を招来するため、悪の根源である伝統的な差別社会を破壊するため、あなたの考える革命の遂行を選択し、なにを置いてもその成功に突き進まなければならないと決めた場合、あなたの考えは、生命と存在の記憶と没交渉とならざるをえず、観念記憶の閉鎖回路は、革命成就の観念のみに収束し、完結します。
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