連還する記憶 ⑥

5/8
前へ
/32ページ
次へ
この理想の誕生と理念の構築プロセスは、ひとえにヒトだけに備わった知性の働きによるものです。 このプロセスによって培われ、保存、蓄積された諸々の観念記憶は、古代ギリシャに端を発し、啓蒙の時代を経て、ドイツ観念論から実存主義、さらに構造主義へとつながる、一貫したヒトの理性の歴史遺産として、現代に生きるわたしたちに至るまで、脈々と受け継がれています。 しかし、問題は、この理想の誕生と理念の構築プロセスに、生命を否定し存在を脅かすものに対してヒトが持つ免疫が係わっているかどうか、ということです。 もし係わっていなければ、無機質の観念として、記憶の閉鎖回路で自己増殖し、生命を否定し存在を脅かし、かつ、ヒトが構築する共同体を否定、攪乱、破壊を目論む観念記憶として、その反生存、反共同体性をいかんなく発揮することになるのではないでしょうか。 わたしたちの生存の記憶の蓄積には、生命を否定し存在を脅かすものに対する免疫が深く係わっていることに、疑いの余地はありません。また、共同体の存立を否定、錯乱、破壊するものに対する免疫も、深く係わっていることも事実です。わたしたちが共同体を形成し、そのなかで存在し、互いに尊重しあい、自由に生きようとする事実自体が、その証となるのです。 ヒトと他人は身の保全のために集団を形成します。 集団の中で、致命的な考えの相違により、生命を否定し存在を脅かす事態が発生しても、集団の理念がこれを検証し、裁定し、統合します。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加