連還する記憶 ⑦

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二つの可能性が考えられます。 <自由奔放な有機体の働き> 理由は、明らかです。心、精神、知性、悟性、感覚、感性、有機体のもつありとあらゆる機能が、自由奔放に解放されていたからにほかなりません。自由な頭脳は、どのような事態に遭遇しても、自由に対応できます。なぜなら、知性の軸が無数にあるからです。ヒトは、いかようにでも、考えを変え適応することができる、多軸構造の頭脳に恵まれているのです。観念を造り出す知性の働きから、理想の誕生と理念の構築という、認識能力を備えたヒトとして、象徴的な収穫物を得られることを確認しました。 本来的に生き物であるヒトやヒトの集団は、自分が生存するに足る理想を造り出し、それを守り抜くべく理念を構築し、実践します。その過程で、ヒトは、生きるために実践するあらゆる行為を、生体に結びつく有機的な観念記憶として、自らの認知体系に保存し、生命記憶と存在記憶と常に連還させながら、さらに生きのびるために、記憶体系に蓄積し継承していきます。ホモサビエンスの七百万年は、こうして担保されてきました。 一方、自分だけが生存するに足る理想を造り出し、それを守り抜く理念を構築し、他を顧みない独善的な生を実践するヒトやヒトの集団が、同時に存在します。その実践課程で、自分以外のヒトや集団を生かさないよう行使する術策は、無機質で排他的な観念として、一旦は記憶体系に保存されますが、有機体である生命体と交渉を持てない無機質の行為ゆえに、生命記憶と存在記憶と連還するゲートウェイをもつことができず、いずれ分散し、消滅していきます。ヒトは、程度の差こそあれ、常時、この種の無機質の弊害に悩まされてきましたが、もとより有機体とは連還する窓口もなく、他者との接触すらままならない排他性に染め上げられているため、実体を伴う危害を与えるまでには至っておらず、ホモサビエンスの七百万年は、常に担保されてきました。 しかし、いま、この無機質集団の脅威は、徐々に増大しつつあります。生き続けようとする有機質集団を、徐々に浸食し、変質させようとしています。 自分だけが生存するに足る理想を造り出し、それを守り抜く理念を構築し、他を顧みず実践するヒトやヒトの集団は、なにを拠り所としているのでしょうか? 生命記憶と連還する存在記憶には、生命記憶と有機的に連還するものと、連還する振りをして生命記憶に潜入するが最終的に受容されない無機質の観念記憶が含まれています。この一見、生命記憶と連還できるように見えるが決して連還することのない無機質の観念記憶が、その拠り所であることにほかなりません。
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