連還する記憶 ⑦

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<自由奔放な微生物の働き> ヒトの体には百兆個を超える微生物(主に細菌)が存在するといわれています。人体を構成する細胞の数が約三十七兆個ですから、それより多くの微生物と生活していることになります。それらの大半はヒトと共生関係にあり、通常、体に害を及ぼすことはありません。このような微生物を常在菌と呼びます。常在菌は、膚や歯の表面、歯と歯ぐきの間、鼻や鼻腔、腸、腟の内側を覆う粘膜など、体外と通じている器官に存在し、病原菌の侵入を防いだり、消化を助けるなど人体にとって大事な役を担っています。他方、健康な人の脳、心臓、腎臓などの臓器には微生物は入り込めないようになっていて、もちろん常在菌も存在しません。私たちの体は、微生物と共存する所と微生物の存在自体許さない所とがはっきり分けて管理されているのです。常在菌はいつ、どこから人体にやってくるのでしょうか。母親の子宮内は無菌状態であり、胎児もまた無菌です。従って、人と微生物との関係は出生時がスタートラインになります。子供はまず産道で母親の常在菌と、続いて空気や食べ物(乳)、周囲の人との接触などを通じて多くの微生物と接していきます。それら微生物と人体が、戦ったり譲ったりの駆け引きを経て、定着した一部の微生物が常在菌になるのです。常在菌の数や構成する種類は成長につれて安定していき、人と微生物が共に生きる一つの生物集合体ができあがります。それがヒトの体です。 大半の細菌は嫌気性菌です。生育に酸素を必要とせず、通常、病気を引き起こしません。腸内の消化を助けるなど、多くは有益な働きをします。しかし、粘膜に損傷があるような場合、嫌気性細菌が病気を引き起こすことがあります。普段、細菌が入り込めない組織では、防御機構が備わっていないため、細菌が侵入します。その場合、細菌は近くの組織(副鼻腔、中耳、肺、脳、腹部、骨盤、皮膚など)に感染したり、血流に入って全身に広がったりします。時には、重篤な被害を及ぼすことがあります。
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