2章 戦学《せんがく》科

3/13
前へ
/26ページ
次へ
2 そもそも個人的に講師という職に就いたのには理由がある。 講師という職はアクアリウム大陸で最も安定した職業だった。 自身の専門とする分野を極める人間が少ないこともあって教職資格を取るのは難関といわれている。 私は、王妃としての教育があったので魔術に関することも戦に関する知識も子供の頃から叩き込まれていた。 夫と間違えて、人を殺めて第二の人生を送ることになってから、捕縛術と治癒術を専門にブロスト師匠のもとで修行を積んだ。 ブロスト師匠は北国では有名な魔術師で北軍勢に加勢することもあった。私が師匠のもとを去ってから旅に出たらしくその素性は分からなくなってしまったけれどブロスト師匠は優しかった。優しすぎて戦を憎むこともあった。それでも、生きるために。生活のための資金を稼ぐためだけに北軍勢に力を貸した。いまどこで何をしているのやら。最近、ふっとブロスト師匠が作ってくれたビーフシチューの味が恋しくなる。 私が住んでいる場所は、魔術専門校の裏側にある講師寮だった。 食事は朝昼夜と用意されていて、洗濯も掃除も係がいて、やってくれている。 もちろん、その資金も援助に助けられている。 帝都から来ている生徒もいるので今のところ安定と快適は保証されている。一回、この便利さを知ってしまうとわざわざ現実に出たくなくなる。外では戦が起きているなど夢にも思わない。 平和と安定が約束されていたはずだが、東と西が牙を向いたために既に均衡は崩れていた。 毎晩のように運ばれてくる定期購読新聞には、東側の軍勢が小国を潰しては兵士を従えて拡大しているとか、西側の軍勢が兵士を減らして特攻しているとか書かれている。 アクアリウム大陸での戦は徐々に大きくなっててがつけられない。 戦が続く大陸になった理由は、帝が引退を表明したからだ。 本来ならば、帝の息が次の椅子に座るところに次男、三男と次々に意義を申し立てた。 帝の兄弟たちは帝都を離れて方々に城を構えて土地を治めている。 この戦乱は、兄弟喧嘩といえた。 情報が正しければ、五男までが軍を率いてあっちこっちで潰しあいをしている。 ユリア学園長がいっていた、八男のリオン講師はまるで関与していないそうだ。 といっても、本人には聞いていないので憶測の領域だけれども。 特に西での次男と四男のぶつかり合い。 東の軍勢三男と五男のぶつかり合いは恐ろしいほど荒れたそうだ。 セフラム講師が帰った実家絡みの戦は西側の話なので次男と四男の競り合いに巻き込まれたといっていい。 その戦も長引いている。 消耗も激しいというのにどちらも諦めていないそうだ。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加