2章 戦学《せんがく》科

5/13
前へ
/26ページ
次へ
「実技は俺が担当するので教科をお願いします」 「ええ、当分はその形でお願いします。実技は抵抗があって」 私はつい、本音を漏らした。 リオン講師は最後のスープを飲み干して立ち上がる。 「聞いてますよ。ユリア学園長から。魔術特化の殺人鬼を作るつもりはないんですよね。俺としては、権力に流されず生きていける知識を教えるつもりなので、その道に進むかどうかは生徒の意思に任せるつもりです」 「そうですか、分かりました。実技の内容が決まりましたら教えてください」 リオン講師が立ち去ってから、私は残りの夕食を食べ終えた。 今日のチーズはやけに塩気が気になる。 いつもより味が濃いのは、栄養士が変わったからかもしれない。 それにしても短い間にいろいろ会話をした気がする。 これから、リオン講師と五人の生徒を育てることになるけれど、私にどこまでできるだろうか。 ふと、不安がよぎった。 3 二日かけて答案用紙を作成する。 リオン講師は授業をしつつ実技の案を練っているようで職員室にいた。 他の講師陣も副担とこれからの授業について会議をしている。 そんな中で私は教科書の内容と設問を眺めて最終チェックにはいっていた。 授業の進みが遅いというのは事実で、予定どおり進んでいない。余計な雑談をいれているわけでもないのに時間ばかり過ぎているのは私の授業のやり方が悪いのだろうか。雑念を振り払いながら答案用紙を眺めること数時間、細部に至るまで確認をして机の引き出しに入れると鍵を掛けた。魔術専門校なので時に答案用紙を覗き見する生徒がいる。個々の魔術を扱う技術もあるが、悪用する生徒もいる。例えば、解除、透視、覗き(ハッキング)関係は、魔術の中でも高度な技術を必要とする。そのような悪どい魔術ばかりを覚えて、ヤマをはって試験に挑む生徒がたくさんいる。ただ、私たち講師はそれを咎めない。魔術を扱う技術がそれ相応と見なして成績に加える。なぜならば、軍にとって魔術の役割は、偵察、防御、治療が主流だからだ。本当に無名の神様とやらはとんでもない力を授けたものだった。ちなみに、密入国、違法物を見分けるなどの魔術も存在し、扱えれば入国管理局での勤務も可能となり、就職の幅も増える。生徒たちは自主学習で魔術の技術を広げて将来の生き方を選んでいく。 試験の答案用紙を机にしまう頃には、夜がやってきた。 私は、食堂に急ぐ。 魔術専門校の楽しみのひとつは、食事だ。 私は食べることが好きなのだ。 今日のメニューは、分厚いパンにブルーベリージャムとミルク。赤身魚のバター煮込み。付け合わせのスープには野菜が入っている。 とても美味しそうだ。 このときばかりは、全部忘れることができる。 なにも考えなくていい。 私は、食事を持って席に着いた。 分厚いパンは、フライパンでカリカリに焼いてある。 ブルーベリージャムのブルーベリーとスープの野菜は特進科の生徒が魔術で育てたものだ。 赤身魚は、料理長が厳選して仕入れてきたに違いない。 この贅沢な食事も各国からの援助というから、講師という職業は相当恵まれている。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加