2章 戦学《せんがく》科

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本当は、不安などと言っている場合ではないことも分かっている。 生徒を育てることが私の職業なのだ。 けれども今は食事に没頭する。 食欲と睡眠欲だけはどんな状況でもなくしてはならない。 「アテネ講師って、美味しそうに食べますよね」 「んっ?」 声をかけられて顔を上げた。 「そんなに美味しいですか? このスープ」 疑問符を飛ばしてくるのは、アカシアだった。 「美味しいものを美味しく頂いているだけですよ。アカシアさんは今日も少なめですね」 「パンより穀物が食べたいんです。おむすびにしてもらって、スープの野菜は抜いてもらいました」 「偏食は体に悪いですよ」 「米が好きなんです。農業の勉強は独自でやってるんですが、お米を育てることは難しいです」 「そうなのですか。農業に興味があるというのも珍しいですね」 「農業、漁業は生活に必要なことですから」 「それにしても少食なんですね」 「はい。漬物も三切れぐらいで間に合いますし、この豆腐は美味しいです。料理長自慢の逸品です」 「料理長はすごいですね。生徒の好みや講師陣の好み似合わせて毎日料理を提供してくれるのですから」 「私は幸せだと思っています」 アカシアは笑った。 それから食事を終えて私は大浴場へと向かう。 魔術専門校の広さは、町一個分だ。 寮など生活に必要な施設だけでなく実戦で使われている施設や戦闘訓練用の森、校庭、図書館や実験室なども取り揃えてある。 大浴場もあるが、夏場にはプール。冬場はスケートリンク。スキー場まである。そこまでやって生徒を育成するために私たちは働いている。 ちなみに生徒の総人数は、千五百人だ。これでも四百人近くの生徒が既に出兵を余儀なくされた。 それだけ、戦は広がっている。 それもこれも、帝が現役引退を望んだからだ。 3 帝の即位は、現在の帝が他界してからと決まっている。 帝が現役引退したケースは実はない。歴代のの帝が寿命まで全うし、次期帝候補はすんなり帝の座を手に入れることがふつうだった。 それが何を思ったのか、五年前に突然、引退表明を出した。 理由は、アクアリウム大陸の新たな歴史を生きているうちに見たい。というものだった。 それを聞いた、帝の兄弟たちは長男にたいしての不満をぶちまけた。 しかし、帝が受け継いできた帝都には、長年支えてきた民が住んでいる。 民たちはそれなりの技術や知識を備え、体力も経験も申し分なく、帝都の軍隊に勝てる者は居ないと言われていた。 そのため、兄弟たちはまず帝候補を狙ったのだ。
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