プロローグ

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その代わり、名前を捨てることが条件となる。 もとより、追放された時点で経歴も身分も関係ない。 「ソフィア・ロイヤル。あなたの新しい名前を聞かせてください」 教会ではマザーが全てを取り決める。 世界に名前を与えなかった神様とやらに使える盲目も女は、世界を仕切っている帝王に選ばれてそれぞれの国や都市に配置されている。その基準は帝王に使えるという巫女のみが知っている。教会には時期マザー候補が数人で生活し、逃げ込んできた羊の面倒をみている。宗教に抵抗のある民はこのイカれた制約を嫌う。本当に逃げ込んでくる羊たちは人生を心からやり直そうとするものだけだった。中には強靭敵にマザー崇拝をする羊もいたけれど、二度目の人生を掴もうと必死に教えを乞うものも多かった。そう、名前を変える儀式は、これが最初で最後だ。悪どいことをしたが最後、三度目のやり直しはできない。逃げて、逃げて大半が殺される。この名前を与えられなかった世界に作られた規則は私が生まれる以前から仕様されている。歴史でいえば、一万年以上前のアクアリウム戦争のあと、といわれている。 「神はあなたの自由を認め、昔の罪を赦されることでしょう。これは第二の人生を送るための儀式です」 マザーの手に持たれた聖杯から月明りに照らされて作られた聖水が落ちて私の掌を濡らす。 魔術で作られた明かりに聖水はきらきらと光った。 死ぬ勇気もない私に与えられた三日間はとても長かった。 いろいろと文字を並べた。 意味のある音を無意識に探していた。 両親は追い出された矢先に夫が差し向けた刺客によって殺された。 私だけ、川を下流に流されて生き延びた。 人を殺めて罪を償わず、のうのうと生きている自分がとても嫌だった。 それでも悲劇の(ヒロイン)を演じるつもりもない。 死んでも生きても荊道に生き延びてしまった悪運の強さに身も心も(やつ)れそうだった。 「私、私の名前は、アテナ・ハンディ」 これは逃げではない。 これでいい。 けれども心がついていかない。 いくら名前を変えたところで罪悪感が消えない。 決死が揺らぐ前に、私は、聖水を口に含み。 儀式を終わらせた。
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