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なんて、冗談めかしに思ってみる。
最近は面白いこともなく世界が回っている。
ずっと考えていた世界とは真逆に向かっている。
それでも前に進んでいけるのは、こうやってやることがあるからだった。
「アテナ講師。書類が崩れかけてますよ」
私は、声につられて顔を上げた。
ほとんど同時に積み重なっていた書類がはでに崩れ落ちて床に散らばった。
「熱心なのは構いませんが、授業の時間や人が覚えられる量は決まってますよ」
苦笑いを浮かべているのは、保険医のフライン先生だった。
穏やかな表情と白衣の似合い具合は羨ましい。
どことなく気品すら伺える。
結い上げた黒い髪も艶やかだった。
「少し、考えすぎました」
「戦学ですね。でも、戦学に神の真髄を求める考察って、必要でしょうか?」
笑いながら床の書類を手にフライン先生は首をかしげた。
「まったく必要ありません」
「え。ですが、ここに明記されてますよ?」
「ああ、私の趣味です。お気遣いなく」
「趣味って」
フライン先生から書類を受け取った私は、隠すように引き出しに入れた。
「私の密かな暇潰しです」
「そうですか、てっきり、宗教倫理や哲学の授業も担当するの思いました」
「興味はあるのですが、哲学はともかく宗教倫理や神についてはからっきしで。妄想も良いところです。ところで何か用事ですか?」
「そうでした。そうでした。ユリア学園長からら職員会議をすると連絡が来ましたのでつたえにきたんです」
「職員会議ですか。ついに、他校との統一許可が降りたのでしょうか」
「可能性は高いですね。統一というよりは、合併の可能性ですが」
「生徒になんと説明しましょう」
私の脳裏には五人の生徒の顔が浮かんだ。
状況は、一刻一刻として変わっていく。
戦場も同じだろうけれども心が追い付かない。
「心の治癒は難しいですからね。職員会議は明後日の放課後だそうです」
「わかりました。連絡ありがとうございます」
フライン先生が去ったあと、私は書類を積み上げ直して教科書を開いた。
歴史が変わると書物の文字が勝手に変わる厄介な教科書だ。
そうした魔術が生まれたのは私が生まれる最以前の話で、そんな魔術を産み出した魔術師は始祖と呼ばれて社に祀られている。
画期的だったが、ある意味恐ろしい。
その魔術をかけられた書物は、普遍的にそのままであり、教師から教師へと受け継がれていく。
実際、私が手にしている教科書は、数百年前のものの癖に新品と変わらない。
竜の革で作られ、魔術をかけられた特別な教科書である。
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