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1章 魔術専門校
名前を変えるという儀式から十五年が過ぎた。
私はいつの間にか二十九になっていた。
教会を出たあと、王妃の嗜みで覚えさせられた治癒術と捕縛術を専門家について習い直し、教師として魔術専門校に就任した。
初めは、生徒を必死に育てて卒業させていたけれど、教師になって五年の間に国々が戦の人員要請を寄越す回数が増えてきた。
魔術は、アクアリウム大陸にとって必要不可欠な要素だ。
薬学、医学でもっても関知させられない怪我を癒すこと。
武術に勝る広範囲での遠距離戦を支えている戦術に加えて生活全般の支えにもなっている。
けれども魔術師を名乗る職業につく生徒ははごくわずかだった。
その経緯には、魔術発動に関する知識や経験が乏しく、生活面での応用のみで、戦に出られるほどの手腕を持っている人物を育てることに時間が掛かるという点にある。
魔術専門校に勤めてから魔術師の道を歩く生徒は指で数えるばかりでほとんどが中退している。
戦への強制が始まってからは三十人いた生徒のうち二十人が魔術専門校を去っている。
先月、別の学級から三名が戦に連れていかれた。自ら出向ではなく、実家が戦に巻き込まれたための召集だった。彼らは、四日生きられなかった。通達が学園長に届いたとき担任は崩れ落ちて泣いていた。端からみていた私もいたたまれなくなった。
それでも、各国からの融資で建てられた魔術専門校のために要請に逆らうことはできない。私が着ているローブや靴や教科書は全て国からの融資で成り立つ。
入学費用も吐きけがするほど高額だが、アクアリウム大陸には魔術師家系の貴族が多く、裕福であるために生徒はあとをたたない。
だが、私の学級のは裕福な世界の釣り合わない魔術師の少年がいる。名前をアレクといって黒い髪の毛と瞳が綺麗な少年だった。制服を着ているので普段は他の生徒と変わりないように見えるけれど、身体は痣だらけだ。なにかに殴られたか引きずられたか、たまに見える腕にかすり傷が見える。自分の魔術で治療しているようだが、未熟すぎて傷口が直ぐに開いている。
アレクの両親は何をしているのだろう。
ふとした疑問もあったが、どうにも、深く踏み込めずにいる。
その上、言い訳にしかならないが戦への強制が強まってどうしていいか分からずに時間だけが過ぎてしまった。
アレクを気にかけている余裕がなくなったのは、去年の新学期だった。
春先の中庭で不穏な情報を聞いたからだ。
「東の国で起きた暴動が戦となってひとつの国を潰したと電報が入りました。今年の卒業生を本隊にほしいと要請が来ていますセフラム先生。出張として出向いて頂けますか?」
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