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「誰の身体がほしいのですか?」
つい、言葉が出た。
二又の尻尾を持つ精霊が、小動物の様な威嚇している。口許から覗いた牙が鋭く見える。
「お前でも、そこの少年でも、男でも。別に構わない。オレは自由になる」
「誰も契約など望んでおりません」
私は即座に答えると、リオン講師に聞いた。
「リオン講師。契約してあげたらいかがですか?」
臨時講師なのだから契約術を使えるはずだった。
もちろん私も使うことができるけれど、契約条件が身体となると簡単には頷けなかった。
「いやいや、俺はそこまで魔術に精通はしてなくて」
リオン講師があからさまに嫌がった。
「それなのに、結界が歪んでいることにおきづきになったのですか?」
私が問い詰めるとリオン講師は困ったように精霊を見る。
「こいつに身体をやろうとは思いません」
「まったく同感です」
「アテナ講師。実験場にこいつを売り渡すというのはいかがでしょう?」
リオン講師の悪戯な発言に精霊が喚く。
「ふざけるな。神の使いを実験に使うなんて聞いたことがないぞ!」
私は笑ってしまった。
堪えきれなかったのだ。
「精霊を捕縛したのですから、高く売れそうですね。リオン講師」
「そうでしょう。実験場には俺の知り合いが今す。喜んで引き取ってくれると思いますよ」
リオン講師は、本気の様子だった。
隣でぽかんとしているアレクに私は聞いた。
「どうです、面白いと思いませんか?」
「あ、いや、ぼくにはちょっと」
どう答えてよいかわからないのだろう。アレクの反応は悪い。
私は、精霊を横目に続ける。
「精霊さんが神の使いなら、この捕縛術から簡単に逃げ出せるでしょう?」
蔦に絡まった精霊が悔しそうに呻いた。
「畜生、最初から気がついていやがったな。オレが完全体ではないこと」
「それに魔力もほとんど残っていませんね。まるで無理矢理復活させられたような。けれども完全体ではなく中途半端に覚醒されている。それで、どちらの手でここへ誘きだされたのですか?」
私は、リオン講師とアレクの両方を指して聞いた。
「さあな、気がついたら目が覚めていただけだ。どっちが封印の石を砕いたかなんて覚えていない」
精霊が不機嫌に答える。
「封印、復活、覚醒、そんなに簡単に出きるものかな?」
リオン講師が言った。
「アレクさん、どうですか?」
私が言うとアレクがきょとんとした表情をする。
「ぼくには、そんなこととできませんよ。精霊を扱う術もまだ修得していないのに」
「そうですか、ですが、アレクさん。精霊は強い意志や念を持つ代物です。それは負の意識も善の意識も同じことです。知識がないまま精霊を復活させると目を覚ました精霊は確実に契約を持ちかけてくるんです」
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