プロローグ

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プロローグ

自分が犯した過ちに気がついたときには遅かった。 煌めく世界に嫌悪感を持つことがとても遅かった。 全てが残酷で吐き気が止まらない。 五年前に私が殺したのは、悪魔でも魔王でもなく冷酷な人間だった。 私は、ミスリル国の第三王女として生を受け、隣国の王子と政略結婚させられた。 夫は双子であり、セルドナという兄がいた。 セルドナは優しく、とても機転の利く人だった。 私は、冷血な夫よりもセルドナに惹かれてしまったのだ。 同じ容姿なのに、服装の好みも立ち居振舞いもまったく異なる二人の見分け方は簡単だった。 けれども、愚かな私は間違えてしまった。 夫を毒殺するはずだった。 紅茶に角砂糖を入れるヒリュウのクセを使い、殺すつもりで紅茶を調合させた。 それなのに、どうして。 目の前で夫は死んだ。 夫は死んだはずだ なのに、なのに。 駆けつけたセルドナは、夫の服を着ていて、地面に転がった残骸に確かに言った。 「兄さん、セルドナ兄さん」 私は二人の顔を交互に見る。 双子の顔の区別がつかない。 「どういうことだ。ソフィア」 声が、夫だった。 氷のような視線は夫のものだ。 そんなの、私が知りたい、などとは口が裂けても言えなかった。 優しかったセルドナが死んで、ヒリュウという冷酷な男がこの世界に残ったことにただ絶望感だけが残った。 私は、夫に生まれた家を追放された。 両親たちも国から追い出されてしまった。 命があるだけいいとは思わなかった。 セルドナを殺してしまった罪に押し潰されそうだった。 私は最愛の人を殺した絶望感に押し潰されそうになりながら教会を頼った。 教会ならば受け入れてくれる。 そういう時代だ。
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