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「アラセリス。へぇ、あんたが噂の編入生か」
探しものはローレンツ様の手の中でした。
「拾ってくださってありがとうございます」
渡してくれるのかと思いきや、私の学生証をご自分の上着の内ポケットに仕舞いました。
前言撤回。この方は悪人です。
「返してください!」
「取れるもんなら取り返してみればいい。ちびだから無理だろうな、ほれほれ〜」
ローレンツ様はただでさえ私よりも背が高いのですから、ローレンツ様が頭上高くに掲げると、取れるはずありません。
こんな、こんな幼稚舎のこどもがするようなこと貴族の方がするなんて!
意地悪な人は嫌いです。大嫌いです。
半泣きでジャンプを繰り返していると、拳が飛んできました。
「ふざけるのはおよしなさい!!」
「ごふっ!」
ミーナ様が拳を振り上げ、ローレンツ様を怒鳴りつけたのです。
「ローレンツ。困っている人を、それも女性をいじめるなんて最低ですわ! お父上が聞いたら嘆きますわよ」
「わ、悪かった会長。俺が悪かったから。ほら、これはその子に返すから、な? な? 親父に告げ口するのはやめてくれ」
「謝る相手が違います。それに、わたくしが魔法士団長様にするのは告げ口ではなく、事実の報告です! 言葉は正しく使いなさい」
「わかったから! 許せよ、アラセリス!」
ローレンツ様は私の手に学生証を押し付けて、猟犬に追われる兎のように逃げていきました。
「ありがとうございます、ミーナ様!」
「もう。だからあれほど気をつけてと言ったのに。気を抜いたら負けよ、アラセリス。このあと買い物に行くようなら日を改めるといいわ。イワンに会ってしまうかもしれないから」
「はい。気をつけます」
ミーナ様が輝いて見えます。勇者様、救世主様、天使様、どう例えればよいのでしょうか。
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