3 夢のようだけど、夢じゃなかった。

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3 夢のようだけど、夢じゃなかった。

 ミーナ様が家まで一緒に歩いてくださったので、イワン様と遭遇することなく家に帰ることができました。  やっぱり自分の足で歩くのは良いわね、とミーナ様は笑っています。  レネが玄関先で待っているのが見えました。私の姿を見ると駆け寄ってくる。 「おかえりセリス姉さん。大丈夫だった? そちらの方は」  ミーナ様がスカートの裾を持ち上げて、頭を下げる。 「ごきげんよう、レネさん。わたくしはギジェルミーナ。生徒会長を努めておりますの。アラセリスさんとお話していてとても楽しかったですわ」 「こ、これはどうもご丁寧に」  レネはガチガチに硬直しながらお辞儀を返す。  予告なしに貴族のご令嬢が現れたのだから、無理もないです。 「そんなにかしこまらなくていいわ。アラセリスさん……セリスさんと呼んでもよろしいかしら。また話をしたいの。明日迎えに来ますわね」 「ありがとうございます、ミーナ様」  これも恋愛イベントよけのためだそうです。  恋人候補さんたちと仲良くなると、通学時迎えにくるランダムイベントが発生するそう。  一定の好感度を超えた人の中から一人がランダム選出なので、先にミーナ様が約束してしまえば、回避できるかもしれないという。  帰路につくミーナ様を見送って、レネはしみじみと言う。 「ミーナ様がいい人そうで良かった。セリス姉さんがいじめられていないか心配だったんだ。魔力を持っていて入学した庶民は過去にもあまりいないって聞くし」 「レネは心配性ね。ミーナ様はとても良い方よ。他の方とはあまりお話できなかったけど、きっと大丈夫よ」 「そういうとこ。セリス姉さんは危機感がなさすぎるから心配だよ。生徒と教師以外立入禁止でないならついて行こうと思ってたんだから」  十年前、叔母夫婦が事故で亡くなり、レネは独りになった。そのレネを私の母が養子として引き取ったのです。  優しくていい弟なのだけど、心配性すぎるのがたまにきず。 「もぅ、レネったら。私の心配ばかりしていたら、自分の恋をする時間がなくなっちゃうわよ。私のせいでレネに恋人ができなかったら、姉さんは責任感じちゃう」 「……別にいらないよ。ボクはセリス……姉さんがいればそれでいい」  レネは私から目をそらして、先に家に入った。 「おかえりなさい、セリス。夕飯できているわよ」 「わぁ、春きのこのポタージュ。私これ大好き」  白くてとろみのあるスープに浮かぶ春きのこ。今の時期しか食べられないごちそうです。 「学校はどうだった? 魔法の勉強、ついていけそう? いじめられたりしなかった?」 「今日は入学式と教科の説明だけだもの。明日にならないとわからないわ」  お母さんもレネと同じことを聞いてくるから、おかしくなってしまう。  いじめられていないし、授業も始まっていない。  けれど人生で忘れられない衝撃の出来事があった。  王子様と出会い、魔法士団長の息子さんとも出会った。そして何より、ミーナ様が話してくれた私の未来。  なんとか不幸な未来を回避して、この平穏な日々を続けられるようにしなくちゃ。
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