思い出の味

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 にこやかにそう言う母親に案内されて、客間へと入った。  広い畳の部屋にはすでに会長が座っており、その存在感に一毬は硬くなりながらも挨拶を交わした。 「……よく来たな」  会長は一言だけそう言うと、一毬とは特に会話はせず、すぐに湊斗と開発の進捗の話題を始める。  ――私、嫌われてないよね……?  黙って話を聞きながら、一毬が次第に不安を抱え出した時、「一毬さん」と母親に手招きされた。 「父子(おやこ)そろって、すぐ仕事の話になるんだから。私たちは、こっちにいましょう」  母親はくすりと笑うと、一毬に「こっちよ」と指をさした。  一毬は持ってきた手土産の箱を抱え、母親の後についてキッチンへと入る。  木のぬくもりを感じさせるキッチンは、木目調で統一されていて、窓から差し込む秋の日差しが心地よかった。  するとしばらく黙ってお茶の準備をしていた母親が、ぴたりと手を止めて一毬に向き直った。 「一毬さん、本当にありがとう。湊斗が今こうして穏やかに過ごせているのは、一毬さんのおかげよ」 「そ、そんな……私は何も」  一毬は驚いて背筋を正した。
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