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「本当は、一毬のご両親に挨拶するのが先だと思うんだが……『早く連れてこい』って、うるさくてな」
珍しく困ったようにため息をつく湊斗が新鮮で、一毬は大きくうなずいたのだ。
駅からさほど遠くない住宅街に、湊斗の実家はあった。
想像では今時の洋風な家を思い描いていたが、意外にも純和風の大きな門構えの立派なお屋敷だった。
木の戸をくぐり抜けると、大きな松の木が見え、池の周りには紅葉が植えられている。
あと少ししたら、この紅葉が色づきだすのだろう。
一毬が口をぽかんと開けて見ていると、玄関の引き戸に手をかけていた湊斗の声が聞こえた。
一毬は小走りで玄関へと向かう。
パッと顔を上げた先には、もうすでに湊斗の母親らしき女性がにこやかに立っていた。
「いらっしゃい。一毬さん」
湊斗に目元がそっくりな母親の顔を見て、一毬は「あっ」と声を上げる。
目の前に立っていたのは、病院で見かけた上品な女性。
――湊斗さんの、お母さんだったんだ。
驚いた様子の一毬に、母親は嬉しそうにほほ笑んだ。
「覚えていてくれたのね。あの時は驚いたけど、こうして二人で来てくれる日が迎えられて、本当に嬉しいわ」
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