思い出の味

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「お父さんはね、あんな人だから口では何も言わないけれど、あなたには心から感謝しているの。それだけは、私から伝えておくわね」  そう言うと、母親は今にもあふれ出しそうな涙を目にためながら、一毬の手を握る。  思いがけない言葉に、一毬も次第に瞳を潤ませると、何度も大きくうなずいた。  母親の手のひらから伝わってくる温もりは、とても優しい。  ――なんて温かい家族なんだろう。私もいつか、湊斗さんのご両親と、家族になりたい……。  そんな想いが、一毬の中に強く芽生えていた。 「そういえば、それ。お願いしてたものでしょ?」  しばらくして母親が涙を拭いながら、一毬がキッチンに持ってきた箱を指さす。  一毬ははっと我に返ると、慌ててその箱を手渡した。  湊斗の実家に行く事が決まって、一毬が手土産を悩んでいた時、湊斗がリクエストしたのがツイストドーナツだった。  手作りのドーナツで良いものか、一毬はしつこく聞いたが、湊斗は「それでいい」の一点張りだったのだ。  母親は箱を開けると、嬉しそうに中を覗き込む。 「実はね。湊斗が子供の頃、私もよく作っていたの。このドーナツ」
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