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「え?!」
一毬は驚いて目を丸くすると、前に湊斗と一緒にドーナツを作った日のことを思い出した。
『俺、ねじってある昔ながらのドーナツが好きなんだよな。もう随分と、食べてないけど』
あの時、湊斗は懐かしそうな顔をしていた。
――お母さんの、思い出のドーナツだったんだ。
「湊斗が電話でね、一毬さんがよくドーナツを作ってくれるんだって話しててね。なんだか私まで嬉しくなって、リクエストしちゃったの。こんなにいっぱい、大変だったでしょう?」
「い、いえ。全然……。私の方こそ、すごく嬉しいです……」
一毬はそう言いながら、自然と涙がこみあげてくる。
湊斗の中に息づいている家族の思い出に、自分も加えてもらえていたことが、たまらなく嬉しかったのだ。
いつの間にか、一毬は声を上げて泣きだしていた。
「一毬?! どうした?!」
一毬の泣き声を聞きつけた湊斗が、不安そうな表情を浮かべながら、慌ててキッチンに飛び込んで来る。
でもその顔つきは、すぐにほっとしたような表情に変わる。
湊斗の瞳には、肩を寄せ合いながら涙する、一毬と母親の幸せそうな顔が映っていた。
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