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9話
「…………(恥ずかしい)」
「クク、デカい腹の音、ヒーラギは腹減ってるのか? ……そうだよな魔力ずっと使いながら来て、俺のキズを癒して魔力もくれた――よし、俺が美味いものを作ってやる」
「ありがとう、でも魔力はブランが勝手に持っていったの!」
「そうだったな。ヒーラギの甘い魔力は助かったよ」
甘い……彼にされた事を思い出して頬が熱くなる、その姿を見て笑い。ブランは自分の肩掛けカバンを漁って――小さなテーブル、折りたたみの椅子、ナイフ、まな板、鍋、フライパン、調味料を次々取り出した。
木の下に椅子を置き、まな板とナイフをセットしたテーブルの上に置いた。この開けた場所に火を起こすのか、石でカマドを作ると、近辺に落ちている落ち葉や木の枝を集めはじめた。
一連の無駄のないブランの動作を、ボーッと見ていた私はあることに気付く。
(ブランが持ってるカバンって、私がおじさんから貰ったカバンよりも……小さくない?)
それなのに、あきらかに容量が違うテーブル、椅子をカバンから取り出した。遠征にいく騎士団だって、調理器具、寝袋、テントなどを運ぶ荷物運びの人がいた。
どう言う仕組み?
「ねぇ、どうしてそんな小さなカバンから……次々、カバンよりも大きな道具が出てくるの? 私を見てよ!」
と、言ったのは。片手にアタッシュケースを持ち、肩にはパンパンなカバンをかけているから。
ブランは集めた枝をカマドに置き、私を見て。
「ヒーラギは大荷物だな。俺が持っているカバンはマジックバッグと言って、なんでも収納できる魔法の鞄さ。いいだろう」
「ま、魔法のカバン? マジックバッグって本で読んだことがある。なんでもカバンに収納できて、しまった食材が腐らないって書いてあった……それ、ほんとうなの?」
「おぉよく知ってるな。で、ヒーラギが持ってるアタッシュケースと、パンパンなカバンの中身は何入ってんだ?」
ブランに聞かれた私は「見てみなさい!」とアタッシュケースをバーンと開けた。その中身を見たブランは瞳を大きくする。
「はぁ? その何種類ものパンが入ったアタッシュケースは? そっちのカバンの中身はなんだ?」
「パンは家から拝借したもので。こっちのカバンはここに来る途中で、キズを癒したおじさんの村でいただいた食べ物です!」
「……せ、全部、食いもんかよ? 着替えは? 雨具は? 護身用のナイフくらいは持ってるだろう?」
「ナイフ? あ、あとは薬草の本と魔法の本がニ冊と、書き溜めたメモ帳が入っています」
ほんとうか? と、ブランの目が点になる。
今日中に別宅へ着けば……なにかしら服が置いてあるだろうし、必要ないと思っていた。
「ぷっ、はははっ! おもしれ聖女だな」
「だって、ここでブランに会わなかったら国境近くの、別宅に行くだけだから必要がないわ」
ブランはハァとため息をつくと、ツカツカと寄ってきて、人差し指でおでこをツンツン押した。
「な、なに?」
「ヒーラギには護衛がいないんだぞ! 自分の身を守る護身用ナイフくらいは持っておけ、何かあってからでは遅いんだぞ!」
「それは大丈夫です。そんな輩に効く、目眩しの魔法を知っています!」
「目眩しの魔法?」
「えぇ」
ブランに見てください「ライト!」と、自信満々に魔法を唱えたのだが――ますますブランの表情が曇る。魔法の書物に光の魔法だと書いてあったし、魔力が少なくても使えそうだったから覚えたのだけど……違うの?
ブランは呆れた顔と、ポリポリ頬をかいた。
「あのな、ライト魔法は明かりのないダンジョン、夜に使う光源の魔法だ。周りを見てみろ、ヒーラギの前に丸い灯りの玉しかでねぇだろ?」
彼の言う通りで、私の周りには丸い光の玉がプカプカ浮かんでいるだけだった。
「……ほんどうだ」
「クックク、ヒーラギは今まで祈りとか癒しかして来なかったんだろ? ……しかたねぇ、国に行く道中で俺が魔法を教えてやる、その前に腹ごしらえだな……俺が持ってきた食材は少ないかな? ヒーラギ、そのパンパンなカバンの中身見せて」
ブランに食べ物が入ったカバンを渡すと中を漁り、目を輝かせた。それは酪農のおっちゃんに貰った牛肉の塊。
「こ、これは人間の国にしかない牛から取れる牛肉だ! 浄化とハーブに漬けないと食べられない魔物の肉と違って、癖ながなくて油が乗って美味いんだろ?」
そんなキラキラな瞳で聞かれても、遠い昔に数回、食べた記憶しかない……
「た、多分、美味しかったかな?」
「なに? ヒーラギは牛肉の味を忘れたのか? いつも、どんな食事を食ってたんだ?」
――どんな、食事を食べていたって。
「えーっと硬めのパンと野菜スープ……誕生日の日はパンケーキでした」
彼の瞳が鋭くなり。
「硬めのパンと野菜スープ?……食いもんが少ない俺たちよりもひでぇ食事だ! だから、ヒーラギはそんなに体の線が細いのか……クソッ、待ってろ! いま美味いもんを作ってやる」
ブランは牛肉の塊を使い調理を始めた。
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