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10話
「ヒーラギ、待ってろ! いい肉だから焼肉にしてもいいが、ここはハンバーグを作ってやる」
「ハンバーグ?」
「ニシシ、出来てからのお楽しみだ」
テーブルに置いたまな板の上で、ブランは牛肉の塊を半分切り取り、ナイフで細かく細かく刻み大きめの鍋に入れた。次にカバンを漁り、ヒーラギの拳くらいの赤っぽい岩と丸い小さな黒い粒を取り出した。
「いい肉だから、味付けはシンプルでもいいかな?」
「岩と黒い粒で?」
「違う、これはロックソルトと言って獣人の国で採れる塩で、こっちのは粒黒胡椒。どっちらも調味料だよ」
「それが調味料⁉︎」
まぁ見てろよと、ブランはロックソルトを布に包みトンカチで砕き、欠けらをもっと砕いた。黒胡椒の粒は小さな鍋底で粒をすり潰して出来上がったのは、ピンクの細かい粒と黒い細かな粒。
「なんだヒーラギは味が気になる、少し舐めるか?」
頷くと手のひらに少しずつ乗せてくれた、それをペロッと舐めた。
「うわっ、しょっぱい、こっちはピリリする」
「ハハハッ、そうだろう。塩と胡椒を肉にかけて、よく手でこねるんだ!」
「こね終わったら?」
「終わったら、丸めて真ん中を凹ましてスキレット(鋳鉄製のフライパン)で焼く」
拾った枝をスキレットが乗るように焚べて、ブランは火を魔法で起こして乗せた。スキレットが温まったら油を引かずにお肉を並べて蓋をした。中でジューっと音を出してハンバーグを焼いていく。
ブランは器用に火の魔法で調節をしながらハンバーグを焼き、中まで火が通ったら出来上がりだと教えてくれた。
焼き上がるにつれて、いい匂いが辺りに漂う。
「な、何だ、この美味そうな匂いわ!」
「ほんと、お腹が空いてくる、いい匂い」
"キュルルルルル"どちらの音かわからない、お腹の音。
お腹に、ダイレクトに響く匂いに、二人でゴクリと喉を鳴らした。
ブランは焼けた端をナイフで切りつまみ食い、私の口にも入れてくれた。モグモグ咀嚼すると肉の旨味と肉汁がじゅわり、塩胡椒のアクセントがいい塩梅。
「美味しい、もっと食べたい!」
「待つんだ、ヒーラギ。俺はいま、ものすごーく我慢している」
真剣なブランの表情と、口元に光る……アレは彼のヨダレだ。
「ぷっ、ブラン、ヨダレ、涎が垂れてるよ」
「うるせ、こんな美味い肉は初めて食ったんだ。俺たちの国にいる牛型モンスターの肉とは何もかも違う。出来上がったハンバーグを思いっきり食べたい! わかるかヒーラギ?」
「(……コクコク)わかる、私も我慢する」
でも匂いに釣られて、ちょこんと料理するブランの横に座った。
「おっ、ヒーラギも見てるだけじゃなくて、料理してみるか?」
「え、いいの?」
「いいぞ! ハンバーグは俺が焼くから、ヒーラギは玉ねぎを薄く切ってくれ」
「玉ねぎを薄く?」
ブランは玉ねぎとナイフを私に渡した。
まな板の上に玉ねぎを置きナイフを構えて、プルプル震える手元を見て『待て、最初に尖った上と下を切り落とすと、やりやすくなる』とお手本を見せてくれた。
お手本通りに玉ねぎをねかせて、上と下を切り落とした。その後は半分に切って、平べったい方を下にして端から薄く切る。
薄く? ……あ、アレだ。いつも王城で飲んでいたスープに入っていた、薄い玉ねぎを思いだして、ナイフで玉ねぎを切る。
玉ねぎがしみて、鼻の奥がツゥーンとして瞳に涙が溜まる。
「……つうっ、ブラン、玉ねぎって目にしみるね」
「そうだな、玉ねぎは目にしみる……」
私とブランは玉ねぎで、ポロポロ涙を流した。
「出来上がりは、こんな感じでいい?」
「お、初めてにしては上手く切れてるよ。どう? 料理をやってみて楽しいか」
「うん、楽しい! それで、この玉ねぎを使ってブランは何を作るの?」
「ん? ヒーラギが切った玉ねぎはな。ハンバーグを焼いた後に残った肉汁でしんなりするまで炒めて、ハンバーグにかけるソースを作るんだ」
それを聞いて、ハンバーグの出来上がりがもっと楽しみになった。
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