14話

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14話

 私たちは国境近くの、アスール街に来ている。  私物のアタッシュケースを質商に売り、手に入ったお金を持って服屋に向かっていた。 「ブラン、服屋は後でいいから、先にたこ焼き食べようよ。丸く焼いた……たこ焼き食べたい。隣の串に鶏肉をさして炭火で焼く、焼き鳥でもいいよ!」 「はいはい、後でな」 「ニュ、ニュ」  駄々っ子中の私の意見を無視して。  ブランとスラは、私の手を引き服屋に連れて行く。  服屋は苦手だ……ローザン殿下に散々、貧相だなと言われて傷付いたから……自分の貧相な体を見せたくないのだ。 (八年経っても身長は余り伸びす、胸もない) 「わ、私の服は古着でいいしよ。なんならブランのお下がり着るよ」 「俺のおさがり? ……別にいいけど、俺のは殆ど尻尾穴が空いているからケツが見えるぞ」  え、尻尾穴? お尻? ということは下着が丸見え⁉︎  ブランのお尻を、あらためて見て納得した。 「うわぁ、大きな尻尾の穴……わかった、動きやすいワンピースを買う」 「あぁ、そうしろ。色はグリーン色な、いまから向かう森に、溶け込める様にした方がいい」 「うん、そうする」  服屋を探して街の中を歩いていたが、ブランが何かに反応して後ろを振り返り――しばらく街の中を見て『ふうっ』とため息を付いた。 「ヒーラギ、落ち着いて聞け。何者かが、俺たちの後についてきている」 「え、誰?」   「コラ、キョロキョロ見るな……質商の奥にいた用心棒の奴らかな? ヒーラギ、あのアタッシュケースは何処で手に入れたんだ?」 「あのアタッシュケース?……あれはローザン殿下からの贈り物だけど……売っちゃまずかった?」 「あ? アイツからの贈り物? だとしたら何処かに王族のマークが入っていたのか? 王族しか使えない高級な生地、素材で作られていたのか……もし、そうだとすると、今ついてきている連中はヒーラギをこの国の王女と間違えたようだな」 「えぇ、私が王女⁉︎」  来い! ヒーラギ、走るぞ! と、ブランに手を引かれて賑わう街の中を走る。路地に入り込むとブランは私を胸に抱き寄せて。 「【身消し】」  素早く魔法を唱えた。その後すぐ、数人の足音が近付いてくる、私は怖くてブランの服を掴んだ。 「安心しろ、魔法で俺達の姿は消した……俺の魔力が足らないから使いたくなかったが、いまは仕方がない……ん? ヒーラギ、スラは声を出すなよ」  コクコク頷くと、後を追ってきた男達の話し声がした。どうやら私達のすぐ側にいるらしい。 「アイツら、こっちに来たはずなんだがな。お前、本当にあの貧相な女が前聖女なのか?」  私を貧相だと聞いた男に。  一人の男が声を上げた。 「ああ間違いねぇ、オイラが騎士団にいた頃、顔を見たことがある。あの顔で間違いない」  男達の中に騎士団へいた者がいたのか……魔物と戦う戦場でベールは邪魔になって付けていなかったから。 「だったら、俺達にもとうとう運が回ってきたな。最近はどこの国でも魔物が暴れていると騎士団にいたころ聞いた……あの女を捕らえて隣国に売れば大金が入る、俺たちは一気に金持ちだ!」 「はぁ、金持ちになりてぇ。早く女を見つけようぜ!」 「「おう!」」  男達はこの辺りを隈なく探し。 「ここにはいないな?」 「あっちを探そう」 「わかった」  と男達は、私を探しに走っていった。   「行ったみたい……」   「そうだな――奴らは質屋の用心棒ではなく……ただの騎士崩れの連中か……よかった、王族の連中ではなくて……なぁ、ヒーラギ、この国の結界は後どのくらい持つんだ?」 「結界ですか? えーっと昨夜、舞踏会を出るときに一度強化したきりなので……今日の祈りをアリカが捧げていなかったら……もって数時間かな? 祈りを捧げていれば明日まで持つと思う。心配なら祈りを捧げるけど?」  しなくていいと、ブランは首を横に振る。 「いいや、ヒーラギはこの国の聖女じゃねぇ、聖女はアリカという女性なんだろ? その聖女が祈っていたら一日、祈りをしていなかったら……数時間で結界が消えるのか……まぁ、消えても直ぐに魔物は襲ってこないとは思うが。念には念だ、直ぐにこの街を立つ」 「ニュ!」 「はい!」  私は姿消しのままで、ブランは服屋により妹の服だと言って買ってきた袋を渡される。中身は緑色と真っ白なワンピースが入っていた。 「ブラン、ありがとう」 「いいや」  次に屋台に寄り――たこ焼き、焼き鳥、コロッケ、食材を買ってブランの国へと旅立つ。街の反対側から出れば、国境はすぐ目の前なのだけど。  ブランは国境とは全く違う、場所に行こうとした。 「国境は直ぐ、そこだけど?」 「それは人族の国境だ、俺達の国境というか国への出入り口はこっちなんだ。たこ焼き食べながら行こう」 「う、うん」  カリカリに焼かれた甘いタレがかかる丸いたこ焼き。  それを串にさしてパクッと食べると、外はカリカリで、中はトロトロ……中にタコが入っていた。 「美味しい、カリカリでトロトロ、ジュワーってお出しがでてくる」 「トロトロの中に入ってる、ポルポ(タコ)はコリコリで美味いな」 「ニュ、ニュ」 「スラも美味いか」  たこ焼き、焼き鳥を食べながら十二分くらい歩き、国境の壁の途中で足を止めたブラン。 「確かここに師匠が作った……ゲートがあったはず。ここだ! ヒーラギ、俺たちの国に行こう」 「ニュ」 「えっ、ええ?」  驚く私の手を二人は引き、壁の中に入っていった。    +  ヒーラギ達が国境を越えた夜。国の付近の森から魔物の鳴く声が聞こえた……その声は段々と国へと近付いているように感じた。  朝と昼はアリカと過ごしていたローザン殿下は部下らかの報告を受け、このままではまずいと聖女アリカに頼んだ。 「聖女アリカ、どうやら魔物が付近まできている――貴女の祈りで、この国に結界を張ってくれ」 「え、結界を張る? そんなこと私にはできませんが?」 「ハァ? 君は聖女なんだろ? 頼む、祭壇で祈りを捧げてくれ!」 「待って、私は何度も伝えたけど癒しの聖女よ。結界を張るなんてできない! 今まで行っていた聖女ヒーラギに頼みなさいよ!」  アリカはうるさい! と叫び部屋に篭ってしまった。この日一晩中、森から魔物の叫び声が続いたのだった。  翌日、国境近くのアースルにでヒーラギにいたと、書いた書面が質商から早馬が早朝に届く。ローザン殿下は直ぐに騎士団を派遣するが、ヒーラギは見つからなかった。  
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