16話

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16話

 ブランに師匠と呼ばれた、エルフのロンさんは私の記憶を消したと言った。 「私の記憶を消した? それはいつの話なのですか?」 『今から8年以上前の話。あの日……記憶を消したのはブラン嫁だけじゃないんだ。君の弟さんの記憶も消した』 「待ってください、8年前って……私に癒しの力が芽生えた日だわ……」 「うん、そうだね」  この話をロンさんと始めてから、ブランの様子が変だ。彼が――ブランが落ち込んで見えるのは気のせい? いつのまにかスラもカバンから出て、ブランを心配している。 「ブラン?」 「ん? あぁ」  やっぱり変だ。 『ブラン! 記憶を消すことになった訳を、嫁に話しあげなさい』 「え、俺が?」 「話しなさい!」 「は、はい……俺のせいでヒーラギにも、弟さんにも、おじさんおばさんにも怪我をさせました……すみません」  ブランが私に深深く頭を下げ、彼は昔の話を始めた。 「お、俺は……」  ブランは黒狼王族のなかで、なぜか白く毛と膨大な魔力量を持って生まれた。ブランの母――王妃は魔力量の多いブランを産んだからか、原因はわからないがブランを産んですぐに亡くなってまった。  そのため、ブランは幼い頃から……家族に王妃が亡くなったのは『お前のせい!』『お前が母を殺した!』と、父親、兄弟に言われ続けた。  ――僕のせいで、お母様が亡くなった。     ブランの心は不安定になり……緊張、焦りにより魔力量を上手く扱えず、興奮すると暴発させてしまった。手に負えなくなった国王陛下は魔力にたける、エルフ族のロンにブランを預けた。    そのエルフのロンは国境近く、人間の国のとある夫婦と仲が良く、彼らとは茶飲み仲間でもだった。弟子となったブランもたまに連れていってもらっていた。 『あら、ブラン君も来たの。ちょうど苺のケーキが焼き上がったわ』 『たんと食べて、大きくなるんじゃぞ』  いつも人々に苛まれ続けられたブランは、はじめて与えられた優しさに、この夫婦が大好きになる。    数年後――とある夏の日。  その夫婦の所に女の子と男の子が夏の休暇の間、遊びに来た。彼らは二人の孫――ロンはブランに『しばらく、夫婦に会わないほうがいい』と言った。その訳は大昔、人間は亜人族の力を恐れ、大量殺戮した時期があったのだ。 『でも、ボク……会いたい』 『……うーん、わかった! 週に2回で数時間だけにしなさい』 『はい』  訓練でブランの魔力も落ち着いたからと、ロンに空間開けを習い、週に2回の数時間会いに行った。ブランは……孫が夫婦の側にいない時、夫婦に近寄りお菓子をもらっていた。  通い慣れてきたブランは。ある日……開けた空間を閉めることを忘れて2人に、会いに行ってしまった。ブランが開けた空間から魔物が入ってきてしまう。    ――そのとき丁度、庭園でお茶をしていた夫婦、孫達が魔物に襲われた。ブランは彼らを守るために体を張るも、大怪我してしまう。 (……ボクのせいで、ボクが弱いから……ごめんなさい)    もうダメだと思ったとき、ロンが助けに来てくれたが。  彼もまた魔物を倒すことは出来ず、魔物を元の場所へ追い返すことには成功した。 『ブラン……』  魔物と戦い大怪我を負ったブラン……ロンが治療しても、瘴気を含んだ彼のキズはふさがらない。 『ブラン、すまない……僕では君の怪我は治せない』 『ボクはいい、みんなの怪我を見てあげて……師匠』 『悪いね……』   『いやよ!』  泣きながら見ていたヒーラギ。彼が魔物から自分達を守ってくれと、どうにか治そうと『お願い、彼を治して!』と声を上げたヒーラギの体は光に包まれる。このとき――彼女に癒しの力が現れ、瞬く間にブランのキズを治した。  ブランの治した後に倒れてしまったヒーラギ。 『これは……彼女には偉大な癒しの力芽生えました。この力は素晴らしいことですが、バレない方がいい』  ロンとお爺さんとお婆さんと話し合いで、孫2人の記憶を消し、ヒーラギは弟のケガを治したことにした。その記憶のまま弟は『ヒーラギ姉さんが怪我を治した』と、両親に話してしまい、彼女の両親は有頂天となった。    しばらくしてロンとブランが、お爺さんとお婆さんの所に行くと。ヒーラギは……癒しの聖女になり、王都にいると聞いた。   「そのあとはさっき話した通りだよ……俺はこの国のため、ヒーラギに……聖女の力を借りにきた」   「私……弟じゃなくて、ブランのケガを治したんだ」 「あぁ、そうだ。あの日、俺のせいでみんなを危険に巻き込んだ……すまない。そんな俺を助けてくれてありがとう。この国の為に来てくれてありがとう、ヒーラギ」   「僕からもありがとう、弟子を助けてくれて」 「ニュ、ニュ」  話の中で、ブランは両親に愛されなくて寂しかったんだ。それは私も同じだったからわかる……お爺様とお婆様はいつも笑顔で迎入れてくれて、優しくて、温かった。    彼も、その優しさに癒されたんだね。 「でも、よかった。あの日……私に癒しの力が芽生えてよかった、ブランを助けられてよかった……」 「ヒーラギ!」  ブランが、いきなり私に飛びついた!
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