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17話
「ブ、ブラン⁉︎」
愛情が大爆発したブランに抱きつかれて、頬をスリスリ、スリスリされている。……あ、あのロンさん、スラ見ていないで止めて!
『ブランは嫁が好きだな』
「ニュ」
そこ和まないで。
ブランが真っ白狼のモフモフ姿だと、気持ちいいよ。
でも、今のブランのモフモフがないから……恥ずかしいしかない!
早く、ブランも気付いて。
私の顔真っ赤じゃない?
ううん、全身真っ赤だと思うよ。
「ちょっと、ブラン落ち着いて」
「なんだよ……ヒーラギ、ダメなのか?」
(そ、そのシュンとし垂れた耳と、可愛い顔は反則だよ!)
もう。
「……わかった、落ち着くまでやっていいよ」
「ヒーラギ、ありがとう!」
私の心の中で恥ずかしい。
でも可愛い、が交互に現れていた。
ブランは満足して、気持ちも落ち着いたみたいで。
今日の「野営地を探そう!」と、みんなで開けた場所を探している。
みんなの後を追いかけて瘴気を見つけたら、気付かれない様に浄化していた。
「みんな止まって、」
先頭を歩くブランの足が止まり、彼のモフモフの耳が音を探る。スラも気付いたのか辺りを気にし始め、ロンさんに至っては、いち早く気付き木の上から確認していた。
もちろん、私だって気付いている。
私達のところに瘴気をまとった、魔物が付近にいることを。
「魔物の気配だ……」
「えぇ、この大きさだと……大猪か熊くらいかな?」
この瘴気の大きさは騎士団との遠征で、感じたことがあった。木の上のロンさんが何かに気が付き、指をさして声を上げた。
『見つけた! 北西50メートルの方角に魔物だ!』
「ロン師匠、戦うか?」
『そうだね、あのままにしては置けない』
どうやら、その魔物がいる近辺に兎族の村があるらしい。私の魔力はまだ半分以上残っているから、この森のごと浄化できそう。もし魔力切れで倒れても、ブランとスラ、ロンさんがいるから安心かも。
まだ遠征に不慣れなとき……魔力不足で倒れた私を、森の中に放置した騎士団のようにならない。
――よし、やるぞ!
「ここは私がこの森ごと浄化します!」
「森ごと? 出来るのか?」
コクコク頷いた。
『ほぉ、森を浄化か。いま浄化すれば……しばらくはこの森に瘴気が発生しなくなる。悪いけどブラン嫁、頼めるかい?』
「はい、がんばります!」
『よし! ブランは嫁を守って、僕とスラであの魔物を倒してくる!』
「ニュ!」
「わかった」
「では、森の浄化をはじめます」
私は地面に膝を突き祈り始める。「助けたい」「みんなの役に立ちたい」という思いがふくらみ、私の体内に浄化の光を集める。まだ足りない、もっと、もっと集めて――いまだ! 地面に両手を当てて唱えた。
「【浄化】」
集まった浄化の光が森全体を覆い、瘴気を跡形もなく浄化した。浄化の終わった森はキラキラ輝き、元の自然に戻っていく。
――ホッ、うまくいった。
「ふうっ……この浄化はもっても4、5日かな!?」
「お疲れさま、ありがとうヒーラギ」
「うん!」
瘴気を完全になくすには、森全体に結界を張らなくてはならない。そうしないと直ぐに魔物と瘴気は戻ってくる。
だけど、結界を張るには私に1つ問題がある。
すでに張っている結界の強化はできるけど、私は結界をどうしたら張れるのかが……わからない。
まだ、やったことが無いのだ。
それを知りたくて書庫にあったすべての魔導書、前聖女が書き残した書物も読んだが……結界の張り方は記されていなかった。もしかして隣国なら、結界について記した魔導書があるかもしれないと、殿下に頼んだのだけど。
いまは忙しい! 無理だ! うるさい! と、その願いは叶わなかった。私は八年間もの間、前聖女が張った結界をひたすら祈り、強化していたに過ぎない。
結界の強化と、結界を張るのは魔力を使う量も、質も違うはず。
「凄いな、ヒーラギの浄化の力で……森の空気が変わった」
『ほんとうだ。綺麗な森を見るのは久しぶり、森に住む生き物たちも喜んでいるよ』
「ニュ、ニュ」
魔物を倒して、戻ってきたロンさんとスラに「お疲れさま」と言ってくれて。スラは手を伸ばし私の頭を撫で撫でしてくれた。
(うわぁ、嬉しい)
「スラ、もっと撫で撫でして」
と言ったのだけど。
スラだけではなく、ブラン、ロンさんまで撫でてくれた。嬉しい……まずはこの国すべての瘴気を浄化して、最後に張り方を覚えて結界を張らなくちゃ。
――私は、がんばる!
だからその前に。
「あのね、浄化をしたあと結界を張った方がいいのだけど……私、張り方を詳しく知らないの。誰か知っている人を知りませんか?」
「結界を張るか……ロン師匠、結界に詳しい人誰か知ってる?」
『うーん。僕のキューロン村の長老エルフのビビ様なら、知ってるんじゃないかな? いまから会いに行く?』
会いに行きます! と言う前に"キュルルルルル"っと、私のお腹が鳴った。
いま森の浄化で大量の魔力を使ったから。
「ごめんなさい……」
「ヒーラギは謝るなって。ビビ様のところに行く前、先ずは腹ごしらえをしよう!」
『そうだね』
「ニュ!」
みんなと、ご飯の時間が始まるのだった。
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