19話

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19話

「ブラン、この密封瓶に入った茶色い液体は何?」  私の質問に嬉しそうに「ニィーッ」と、笑ったブラン。だけと彼は教えてくれず、茶色の液体を見せびらかして、もったいぶる。 「もう、意地悪しないで」 「ククッ、わかったよ。ヒーラギ聞いて驚け、これはな肉、野菜を数倍うまくする焼肉のタレだ!」 「や、焼肉のタレ?」 「俺がニンニク、ショウガ、酒とみりん、いくつもの野菜を煮込み、果物を加えて作り出した極上の焼肉のタレだ……まぁ当初は魔物の肉を、どうにか美味しく食べたくて、試行錯誤して作ったんだけどな」 「ニュ!」  その密封瓶を取ろうと、スラがニューッと手を伸ばす。 「おーっとスラ、やはり狙ってきたな、この液体好きスライムめ。だけど、これはダメだ……いまからヒーラギと美味い肉を食べるからな」 「ニュ……ニュー」 「おい、そんなに残念がるなよ。タレが残ったら後でやるから」 「大丈夫、僕に任せて。スラ、僕の特性果実水あげるから、こっちにおいでよ」 「ニュ?」  特性果実水と聞き"キラリン"と、目を光らせたスラはロンさんの水筒に飛びつく。ロンさんはスラを撫でて、コップに果実水をいれてあげた。 「ニュ、ニュ〜⁉︎」 「ハハッ、美味いだろう」 「スラはロンに任せて、俺達は肉を焼こう」  ブランはコメを炊く隣に新しくカマドを作り、何個か赤い魔石を入れて魔法で火をつけた。そのカマドの上に鉄板を置き、お肉の油の多い切れ端を鉄板全体に広げた。  鉄板の上で"ジューッ"といい音を出して、切れ端の油が鉄板の上で溶けていく。 「ブラン、美味しい匂いがする……この匂いで、ご飯食べられるよ」 「おっと、早まるなヒーラギ、肉はもっと美味いぞ」  ピンク色の綺麗なお肉を持つ、ブランにコクリと頷く。  その横で、ロンさんはブラン特性ドレッシングで野菜サラダを食べいた。スラはロンさんが作った特性果実水を飲み、何故かデロンデロンに溶けている。 「スラ、新鮮な野菜って美味しいね」 「ニュー……ヒック、ニュ???」  スラの動きが横に伸びたり、デロンデロンに溶けたり、縦伸びになったり、そして「ニュ、ニュ〜」と陽気に歌いだした。 「ロン師匠⁉︎ スラに酒を飲ませたな!」 「へへ、僕が作った特性果実水を、スラは毎回美味しく飲んでくれるからさ」   「ニュー、ニュ、ニュ〜」 「スラ、あんまり飲むなよ。溶けてなくなっちまうぞ」 「ニュ!」  わかったと酔っ払いのスラは、ユラユラ揺れながら答えた。 「ハハハッ! まったくスラは面白いな」 「うん、面白いね」  たのしい夕飯の時間は続くのだった。    +    時刻は夕暮れときになり、辺りは薄暗くなってきた。  森の開けた場所で、カマドの炎が私達を照らしている。  それよりも暗くなってくると、ロンさんは魔法で明かりを出してくれた。  ――それは私も使える、ライトの魔法だ。 「師匠、ありがとう。ヒーラギ、肉を焼くぞ!」 「えぇ焼きましょう!」  左手にタレの皿と、右手にフォークは持った。  ブランが鉄板にお肉を乗せると、お肉の焼けるいい音、いい香りを届ける。この匂いに私の口の中は大洪水、お行儀悪く何度も喉を鳴らす。  それは肉を間近くで焼くブランもだった。彼の口はハンバーグのときと同じく涎でてかり、グルルッと喉を鳴らして今にも獣に戻りそうな勢いだ。 「ヤベェ、肉の匂いが俺を襲う……これも絶対に美味い!」 「ほんと、いい匂いだね」 「ヒーラギ、もう食べられるぞ」  ブランは焼けたお肉をお皿に山盛り乗せた、私は待っていましたと、お肉をタレにつけて食べる。 「ん、ンン〜!」  舌が喜ぶ甘い肉汁と油、箸でも切れる柔らかなお肉と、ブランが作ったタレの相性は抜群。口に入れた途端、お肉は溶けてなくなってしまった。 「……え? お肉が消えた? なんなのコレ?」 「なんなのコレって、肉だろ? どれ俺もいただきます……モグモグ、モグモグ、何なんだこれ! やわらけぇ、口の中に旨みを残して消えちまった」 「なによ、ブランも同じじゃない。もっとお肉を焼いて食べよう」 「そうだな、炊き立てのご飯とも合うぞ」  ブランは炊き立てのご飯を自分のと、私のお皿へてんこ盛りに乗せた。 「ヒーラギ、焼けた肉をタレにくぐらせて、コメの上でバウンドさせるんだ。コメにタレと肉汁が染み込んでさらに美味い」 「どれどれ……ほんとだ、タレと肉汁最高!」  噛めば噛むほど、甘いコメに絡む肉汁。  このタレをたっぷりお肉を浸けて、コメを巻いて食べても美味しい。 「タレに飽きたら塩で食べると、サッパリして肉がまだまだ食える」 「ほんと? やってみる。……ん? ほんとうだ。お塩だと思うサッパリ食べられるけど、私はタレの方が好きかも」 「そうか? 俺が作ったタレを気に入ってくれて嬉しい」  その後は焼いて食べてと、二合炊いたコメをほとんどたいらげ、貰った牛肉もペロリと二人で食べてしまっていた。 「鉄板に残った肉汁で、コメを炒めると絶対に美味いよな」 「うんうん、絶対に美味しいと想うわ」  ブランは鉄板に残った肉汁とカリカリに焼いた脂身でコメを炒めて。  最後、お皿に残ったタレと塩胡椒をかけた。  タレの焦げた香ばしい香りが、辺りに立ち込めた。 「できた! ヒーラギ食べよう」 「「いただきます!」」  肉汁を吸ったコメと、ピリリと効いた塩胡椒。  コメのおこげがこれまた香ばしくて美味しい! と、二人で無我夢中に食べきり、後に残ったのは綺麗になった鉄板だった。 「食った食った、美味かった」 「ほんと、美味しかったね」 「ブランとブラン嫁、すごい勢いだった……若いってすごい。僕達もおいしかったね、スラ」  準備した野菜を全部食べきったロンさんと。  溶けた、酔っ払いのスラ。 「ニュー、ニュ〜」  お腹の膨れた、みんなの笑顔はキラキラしていた。
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