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21話
朝方、目覚めると毛布がかけられていた。
ブランはいつの間にか人型に戻り火の番をしていて、スラは昨日のお片付け中で、その側にロンさんの姿がない。
「おはよう、ブラン、スラ。ロンさんは?」
「おはようヒーラギ。師匠は人間の国を見てくるって、一時間前に出て行ったよ」
人間の国を見てくる?
「ニュ!」
スラと"おはよう"のハイタッチをして、何やらいい匂いを出して、調理中のブランの横に座った。その手元を覗き込むと、ブランは二枚重ね合わせたフライパンの様な物を、薪の上で焼いていた。
「いい匂い、ブランは何を作ってるの?」
「これか? いま作っているのはホットサンドだ。熱々でトロトロで美味いぞ」
「熱々、トロトロ? わぁ、楽しみ!」
ブランの横で、ホットサンドが焼けるまで待っていた。焼けたのか蓋を開けて中身を確かめて。
「よし、できた」
火から、2枚合わせのフライパンを下ろして開くと、両面カリカリに焼き上がったホットサンドが現れる。ブランはそれをまな板で半分に切り、木の皿に乗せてブランは私に渡した。
「出来たて、熱々が旨いが。火傷に気を付けて食べて」
「ありがとう、ブランも一緒に食べよう」
「そうか? じゃ、遠慮なくいただきます」
熱々のホットサンドをフーフー冷ましながら、手に持ちサクッと食べる。中からトロトロのチーズと、分厚く切ったハムが顔をだした。
「んんっ、美味しい! 食パンがサクサクで熱々のチーズと、厚切りのハムが最高だわ。ブラン、このピリッとするのは何?」
「それは粒マスタードだな、アクセントにいいだろう? このマスタードはソーセージにつけても美味いぞ」
と言い。
マジックバッグから今度は分厚いソーセージを出して、片面で焼き、もう片面でパンを焼きはじめた。
スラは片付けを終えてカバンの中で休憩で、私はブランと朝食をとっていた。ガザガザと草を踏む音が聞こえて見上げると、人間の国に行ったと言っていた、ロンさんがいた。
「ただいま、いい匂いだね」
「お帰りなさい、ロン師匠」
「おかえりなさい」
ロンさんはブランのマジックバッグから、トマトを取り出して反対側に座り、魔法でサッとトマト洗いかじる。美味しそうにトマトをかじる、ロンさんにブランは話しかけた。
「ロン師匠、どうだった?」
「どうもこうも……酷い有様だったよ。新聖女アリカは祈りも捧げず部屋に引きこもって、役に立っていないみたい。国中、深夜問わず魔物の叫び声が聞こえて、焦った王子は人を雇い、必死にブラン嫁を探している。そして――王妃はこの状況のなか国王を置いて、若い男と別の国へと逃亡したよ」
「えぇ、聖女が引きこもって、王妃様が逃亡……ローザン殿下が私を探している?」
私がいなくなった一日で、様変わりすぎだ。
「あと一時間もしないうちに、カザール国の結界は更に弱くなる。近隣の森まで攻めてきている魔王軍は、いまカザール国の騎士団と睨み合っていると聞いた。国を覆う結界が弱くなったら一気に魔王軍が攻め込む……聖女なしの騎士団、いや国は壊滅するね」
カザール国が壊滅?
「その話はおかしいです。王城には私が作った最上級と上級のポーションがあるはずです。数も両方あわせて千本以上だったかな?」
それくらい作ってきた覚えがある。
だから、王城には最上級と上級あわせても、千本以上の在庫は確保できている。魔物、魔王軍と戦い騎士が、もし瘴気を纏う大怪我をしてもポーションを使えば傷は癒せる。
そのポーションを使えば、数日は持つはずだ。
「あー、それがね……ブラン嫁に言いにくいんだけど。王妃が王城から出て行くとき、何百本盗んでいったらしい。その残りは王子が人を雇う金のために全部、商人に売ったと聞いたよ」
「えぇ! 王妃様に盗まれて、千本以上のポーションを売ったぁ⁉︎ 呆れた……私がその量を作るのに、どれだけの日数をかけたと思うの。それだけじゃない聖職者、騎士団の救護係にポーションの作り方を、詳しく書いたメモを置いてきたし。材料だって揃っているはずなのに……誰もポーションを作ろうとしていないなんて……」
人の手柄は簡単に取っていく、くせに。
「ヒーラギ、奴らは自分達のことしか考えない。だから……ヒーラギが心を痛め、落ち込まなくていい。俺でさえ薬草を採取して煮詰め、自分で作っている。ほんと、上の連中は下っ端ばかりこき使って何もしない……俺達は使い捨てじゃないんだ!」
ブランは怒りをあらわにした。
昨夜、「認めてもらえない」とロンさんと話をしていた。ブランもどれだけ努力して、己の力を使っても――認めてもらえなかった私と同じなのかな。
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