22話

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22話

「自分自身が助かる為に母さんを人間に渡した父さんも、義母上、弟達もみんな無能すぎる……その行いの悪さで、人を傷付けて――友のヤンを怒らすんだ」  ヤン?  弟? 「ブランから聞いた話だと、兄弟はお兄様達ではないの?」  私を見る、ブランの瞳が哀しみの色に染まった。 「ブラン、興奮すぎ。全部、嫁にしゃべっているよ」 「ロン師匠、俺は嘘が嫌いだ……ヒーラギと出会ってからずっと胸が痛い。……ヒーラギ、俺は嘘をついている、ごめんな、母さんの力を受け継ぎ強力な聖女となったヒーラギが、人間の国にいては俺達の計画が台無しになる……」 「え?」  ブランのお母さんの力?  私が強力な聖女?  計画が台無し? 「話がよくわからないわ、私の力が必要で城に連れて行くんじゃなかったの? それに私の力が強力なのも……」 「昨夜、まだ眠っていないヒーラギに俺は嘘を言った。……本当は人の国で聖女ヒーラギが守る結界は、魔王ですら破壊できなかった。だから当初の計画の内容を変えるしかなかった」 「……」 「魔王の偉大な力で、異世界からアリカを召喚してもらった。あの王子は聖女ヒーラギを嫌っている。新しい聖女が現れたら、王子は必ずヒーラギを国から追い出すと思った」  苦しそうに語り、押し黙ったブランの後をロンさんが続きを話してくれた。 「異世界人のアリカに、どうしてこちらへ呼んだかを説明して、聖女の役を頼んだんだ……彼女はやると言ってくれた。アリカには自分が危ない目に、遭いそうになったら、部屋から出るなと言ってある」  二人の話に私の頭は混乱する。  魔王がアリカを召喚した? 魔王は次元を曲げて他所の国から、自分達の計画のためにあの子を呼び寄せた……。  私と出会い、彼から聞いた話は全て嘘。  私のことをすくならず、好意があるのかと……彼の優しさ、信じていたものが嘘なんだ。 「何が、なんだか訳がわからない、ブランは何をしようとしているの?」 「いいんだ、ヒーラギはわからなくていい……魔王、竜人、俺達の思惑は一致してる。お互いに願うことがあるから手を組んでいる」  思惑? 「ニュ」 「10年か……もっとかな、長い計画だったね」  スラとロンさんも。 「ちょっと待って、人の国に魔王軍が攻めてきているのでしょう? 私は王族はどうなってもいいけど、国に住む国民はどうなるの?」 「それについては大丈夫だ。魔王は国民には手を出さない、そういう約束だ。誰も争いなんて求めちゃいないんだ。だけど……人を傷付けると倍になって返ってくることを、アイツらに叩き込んでやりたい。母さんを物のように扱った人間は許せない……そして、俺が愛するヒーラギまで、物のように扱っていたなんて許せるかよ!」  ブランの瞳に怒りの炎が見えた。  +  私の力はあの日、急に芽生えたものではなかった。  ブランのお母さんの、聖女……癒しの力が私に移ったらしい……その力でブランの怪我を治して、聖女となり、その力は魔王すら跳ね返す物だった。  ブランと、ロンさんの話からして。  魔王には魔王の野望がある、新しく話に出てきたブランの友達の竜人は黒狼族に恨みがある。ブランはお母さんの事で、人間と自分の家族を恨んでいる。 「ブラン、お母さんの力がどうして私に移ったのか、理由は知っているの?」 「それはわからないんだ、ヒーラギと出会う5年前にロンとスラで、母さんを王城からなんとか助け出した。ロンの友達でヒーラギの祖父母の屋敷に……精神と、体がボロボロな母さんは匿われていた」 「あの日――俺が魔物を連れて大怪我をして、死にそうになった俺を"助けたい"と願ったお母さんとヒーラギ、2人の心が重なったんだとロンは言うのだけど、実際のところはわからない。現実に母さんの力はそのとき消えて、ヒーラギに移ったんだ」 「じゃ、ブランのお母さんは?」 「元気にしてるよ……村で優しい伴侶ができて、幸せに暮らしている。あの日、俺のせいでヒーラギは聖女となり8年もの間あんな場所で、一人で、ごめんな……辛かったろ」  ブランは真っ赤な目をして、自分の唇をギリッと噛んだ。
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